乳癌と放射線治療について

放射線治療は、高エネルギーのエックス線や電子線を照射して、がん細胞の遺伝子に障害を与え、がん細胞の増殖を抑えたり死滅させる治療法です。放射線の種類はたくさんありますが、がんの治療に使われるのは、X線、γ線、電子線などです。がんの中でも乳癌は放射線が効きやすいことが知られています。乳癌に対する放射線治療では、主にリニアックという治療装置を使います。治療期間中は通院の必要がありますが、基本的に普段と同じ生活ができます。

正常組織への影響を小さくするため、一度に照射する放射線の量を減らし、何回にも分けて照射を行います。放射線治療は次のような手順で進めます。

放射線治療の進め方(手順)

診察 問診と診察、さらに手術や画像検査の結果を参考に放射線の専門医が治療方針を立てます。
治療計画 放射線を照射する方向や範囲を決め、汗などでは流れない特殊なインクで皮膚の表面に線を引いて印を付けます。
放射線照射 治療台に体を固定して治療計画どおりに照射します。1日1回、計25回の治療が一般的です。手術後の病理検査の結果によっては5回ほど追加照射を行うこともあります。
経過観察 治療終了後しばらくたって副作用が現れることもあるので、医師の指示に従って定期的に検査を受けます。

治療スケジュール(乳房温存療法の場合)

放射線の照射は1日1回のペースで週5~6日通院して行い、1~2日間休むというのが一般的です。温存した乳房への照射は、1回1.8~2.0グレイ(放射線単位)、総線量では45~50グレイ程度を約5~6週間かけて行います。1回の照射時間は1~2分程度で、特に痛みはありません。

手術で切除した組織の端にがん細胞が認められた場合(切除断端陽性)では、がん細胞の取り残しの可能性が高いと考えられます。このような患者さんには、乳房内再発を減らすため、10~16グレイの追加照射(ブースト照射)を行うことが一般的です。乳房内再発の多くはしこりのあった周囲に起こるため、この部分に追加照射します。

主な副作用

放射線治療の主な副作用

急性障害(治療中や終了直後に出現)
  • 皮膚が赤くなったり、ヒリヒリ、カサカサする
  • 皮がむけたり、水ぶくれのようになる
治療終了後1~2週間で軽快します。
  • 照射した皮膚が黒ずむ
  • 照射した側の乳房が硬くなる
多くの場合、数年以内にかなりの程度回復します。
晩期障害(数ヵ月後から数年後に出現)
  • リンパ浮腫(放射線をリンパ節に照射した場合)
  • 肺炎

放射線治療の副作用には、治療中や治療終了直後に現れる「急性障害」と、治療終了してから6ヵ月~数年後に現れる「晩期障害」があります。
「急性障害」のほとんどが、放射線が当たる部位の皮膚症状です。個人差はありますが、治療開始から3~4週間後くらいに、放射線を受けた皮膚が日焼けのように赤くなり、ひりひりすることがあります。場合によっては皮がむけたり、水ぶくれのようになることがありますが、治療が終了すれば1~2週間で軽快します。

治療後は照射した皮膚が黒ずんだり、照射した乳房が硬くなることがありますが、いずれも数年以内にかなりの程度回復します。

「晩期障害」の発現頻度は低いですが、100人に1くらい人の頻度で、治療後数ヵ月以内に肺炎が起こることがあります。放射線による肺炎は、適切な治療で治りますので、治療後に咳や微熱が長く続くときは、照射を受けた病院を受診するようにしてください。

検討される・されない場合の条件

乳房温存手術を行った場合は、術後の再発を防ぐため、温存した乳房全体を照射するのが基本です。乳房温存手術後に放射線療法を加えた場合と、加えない場合を比較した試験では、放射線療法を加えることで、乳房内再発が約1/3に減少することが明らかになっています。

また、乳房切除術後の患者さんで再発リスクが高いと考えられる場合は、胸壁や周囲のリンパ節への放射線照射が勧められています。がんが骨に転移している患者さんでは、転移に伴う痛みを緩和するために使われることもあります。

放射線治療の主な適応

  • 乳房温存手術後の患者さん全例
  • 乳房切除術で、再発リスクが高い場合(腋窩リンパ節に4個以上の転移が認められたあるいは腫瘍が5cm以上)
  • 腫瘍が大きくて手術ができない場合
  • がんの増殖や骨転移に伴う痛み、脳転移による神経症状などがある場合

ただし、以下のような場合は、放射線治療は受けられません。

放射線治療を受けられない場合

  • 妊娠中の方
  • すでに乳房への放射線照射を一定量受けたことがある方
  • 膠原病の方(放射線障害が生じやすいため)
  • 本人が希望しない場合

新しい放射線治療

  • 加速乳房部分照射:放射線を照射する範囲を乳房のがん摘出部付近に絞って、1回に通常よりも高い量の放射線を照射し、治療回数を減らす(1~10回程度)治療方法のことです。治療法としてはまだ十分に確立されていませんので、現時点では基本的には勧められません。
  • 強度変調放射線治療(IMRT):照射される放射線量をコンピュータ制御により適切に配分する治療法のことです。治療費用が高い、治療準備に日数を要する、普通の放射線療法でも安全かつ効率よく治療ができる、などの理由で、現時点では乳がんに対してほとんど利用されることはありません。
  • 陽子線、重粒子線:まだ限られた施設でしか行われておらず、乳癌では健康保険の適用もありません。乳癌の場合には、X線や電子線によって安全かつ効率よく治療できますので、基本的にはこれらの治療は適応にはなりません。