乳癌の治療 - ステージ別の治療内容、初期治療について知る

病期(ステージ)や状態によって異なる治療方法を知る

臨床病期とそれぞれの治療法

下の図は、臨床病期による治療の概略を示したものです。
乳癌の治療は、病期によっても異なります。
Ⅰ期からⅢ期の乳癌に対しては、手術を中心とした局所治療と全身的な治療である薬物治療を組み合わせた集学的治療を行います。
非浸潤がんでごく早期にみつかった0期では、外科手術だけで定期観察することもあります。他の臓器に転移しているⅣ期では、薬物療法を中心に治療を進めていきます。

乳癌の臨床病期と治療法の選択(目安) 説明図

乳がんの臨床病期(ステージ)分類

独立行政法人国立がんセンターがん対策情報センター編「各種がんシリーズ:乳がん」2012年より改変
治療 術前の薬物療法 術後のリスク判定
病理組織診断(がんの広がり、形態、性質など)
術後の薬物療法
(ホルモン療法・化学療法・抗HER2療法)
病期0(ステージ0) 乳房温存手術 または 乳房切除術
±センチネルリンパ節生検
病期I(ステージ1) 乳房温存手術 または 乳房切除術
±センチネルリンパ節生検
±腋窩リンパ節郭清
病期II(ステージ2)
病期III(ステージ3)
薬物療法
±手術
±放射線治療
(症状や苦痛に対する治療)
病期IV(ステージ4)

初期治療

乳癌と診断されて最初に受けるのが「初期治療」

乳癌と診断され、最初に受ける治療を「初期治療」といいます。
必要な初期治療は患者さんの状態によって異なります。最良の治療を受けるためには、まず患者さんが自分の乳癌の状態を正しく理解し、標準的な治療法が何かを把握したうえで、主治医に自分の希望を伝えながら治療を進めていくことが大切です。下記に、治療法の決定にあたって確認すべき事項を示しました。これらは、治療方針を決めるうえで欠かせない情報ですので、生検や手術後に医師に聞いてよく確認しておくようにしましょう。

治療法の決定にあたって確認すべきこと

  • しこりの大きさ、乳房内の広がり具合
  • がんの広がり具合(リンパ節や他臓器への転移の有無)
  • 病巣の数、位置
  • がんの性質(悪性度、治療の反応性、増殖指数など)
  • 全身状態 など

日本乳癌学会編:患者さんのための乳癌診療ガイドライン2012年版より改変

「標準治療」とは…?

標準治療とは、臨床試験によって有効性と安全性が科学的に証明され、専門家によって「現時点において最善の治療法である」と合意が得られた治療法のことをいいます。乳癌では臨床試験が数多く行われており、初期治療については治療の標準化が進んでいます。
日本人向けの標準治療は、日本乳癌学会が作成した『乳癌診療ガイドライン』(金原出版)において提示されています。また、患者さんが乳癌診療を正しく受けていただくために、「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」(金原出版)も編集・発行されており、疫学、予防、検診・診断、治療、療養の各領域での重要な項目について分かりやすく解説されています。

初期治療のおもな流れ

乳癌の治療は、手術、放射線、薬物療法などを組み合わせて行い、何通りものやり方があります。がんと診断されると、すぐに手術をしないと全身に広がってしまうのでは、と心配になるかもしれませんが、1~2ヵ月で急にがんが進展することはほとんどありません。治療法を決めるときは、あせらず時間をかけて納得のいくまで検討することが大切です。

下の図は、乳癌の診断から治療の大まかな流れを示したものです。必要な治療や進め方は患者さんの病態や希望によっても異なりますので、医師とよく相談したうえで、ご自身の治療のスケジュールを把握しておくとよいでしょう。

初期治療のおおまかな流れ 説明図

初期治療のおおまかな流れ

  1. 1. 乳がんと診断
  2. 2. 検査でがんの状態を確認
  3. 3. 治療計画を立てる
    術前の薬物療法、乳房温存手術、乳房切除術(患者さんの希望に応じて乳房再建手術)
  4. 4. 術中・術後の病理検査
    放射線療法
  5. 5. 術後の薬物療法
    このうち必要な治療を単独または組み合わせて行う
    化学療法、抗HER療法、ホルモン療法
  6. 6. 経過観察(定期健診)

状態に応じた「局所治療」と「全身治療」の違い

乳癌の治療法には、外科手術放射線療法などの局所的な治療と、全身的な治療である薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的治療)があります。
乳癌は、小さくてもいろいろな臓器に転移しやすい性質があるため(囲み欄参照)、手術や放射線療法などの局所療法だけでなく、患者さんの状態に応じて薬物療法を組み合わせた治療を行うのが一般的です。こうした治療を「集学的治療」といいます。

乳がんの治療法(集学的治療)

局所治療

外科手術 乳房に対する手術 乳房温存手術
乳房切除術(乳房再建)
わきのリンパ節に対する手術 腋窩リンパ節郭清
センチネルリンパ節生検
放射線療法 乳房に対する放射線治療
リンパ節に対する放射線治療

全身治療

薬物療法 ホルモン治療
化学療法(抗がん剤治療)
分子標的治療(抗HER2療法、サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害剤など)

乳癌と微小転移について

乳癌は、しこりとして見つかるだいぶ前からリンパ管や血管に入り込み、全身に広がっていることがあります。目に見えない微細ながん細胞は、タンポポの種のように浮遊し、転移の種となってリンパ節や他の臓器に住み着きます。これを「微小転移」といいます。微小転移が存在するかどうかは、画像検査で確認することはできません。このため、たとえ早期であっても、微小転移を伴っている可能性がある場合は、再発を抑えるため、局所的な治療に加えて全身治療として乳癌の性質に合わせた薬物療法を行います。

その他の新しい治療

最近では、乳房の皮膚を温存して乳頭・乳輪を含め乳腺を切除する術式(skin-sparing mastectomy)も開発されています。この術式は、早期の乳癌のなかでも、がんの広がりが大きかったり、複数のがんが同じ側の離れた場所にあるため、温存療法の適応にならない方がよい対象とされています。

このほか、乳頭や乳輪を残す方法もありますが、大規模な臨床試験の結果がなく、標準的な術式にはなっていません。

先進的な取り組みとして、患部にメスを加えずからだへの負担がより少ない治療法も試みられています。こうした治療は「低侵襲(ていしんしゅう)治療」と呼ばれ、一部の施設において行われていますが、臨床研究の段階で、標準的治療には至っていません。

治療法 内容 保険適用
FUS
(MRガイド下 集束超音波手術)
MRI検査の画像をみながら、がん組織を狙って、虫メガネの原理で超音波のエネルギーを集中させ、熱でがんを死滅させる方法 なし
ラジオ波焼灼術 がん組織に電極針を刺し、その先端からラジオ波による摩擦熱でがんを死滅させる方法 なし
凍結療法 がん組織に刺した針を通じて組織を急速に冷凍、凝固させることでがん細胞を死滅させる方法 なし

リンパ節切除(腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい))

乳癌はわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)によく転移をします。

ここに転移している場合は、それ以上のがんの転移を阻止するため、手術の際、腋窩リンパ節を一緒に取り除きます。これを「腋窩リンパ節郭清」といいます。

腋窩リンパ節郭清を行った場合、腕に負担がかかった時などにむくみ(リンパ浮腫)を起こすことがあります。

センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節生検 説明図

センチネルリンパ節は、色素や放射性物質(アイソトープ)を病変の近くに注射し、リンパに沿って流すことによって見つけ出します。

触診や画像検査で、腋窩リンパ節への転移が確認されない方に行います。
「センチネル(見張り)リンパ節」とは、リンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことをいいます。ここにがん細胞の転移があるかどうかを、術中の迅速検査や術後の病理検査で調べます。
転移がない場合は、その先のリンパ節への転移もないと考えられるため、それ以上の切除は省略します。転移があった場合は、その先にがんの転移がある可能性があるため、腋窩リンパ節郭清を行います。

以前は、ほぼすべての乳癌患者さんに腋窩リンパ節郭清を行っていましたが、センチネルリンパ節生検の普及により、転移をしていない患者さんに不要な腋窩リンパ節郭清を省略できるようになり、腕のむくみなどの後遺症を避けることができるようになりました。

手術後の主な後遺症

リンパ浮腫

手術で腋窩リンパ節郭清を行うと、リンパ液がたまって腕がむくんだり、はれることがあります。これをリンパ浮腫といいます。
一度リンパ浮腫になると治りづらいため、手術した側の腕で重いものを持たない、リンパの流れを圧迫しない、傷をつけないなど、予防を心がけることが重要です。また、手術した側の腕は、鍼(はり)や灸(きゅう)、強い力でのマッサージなどは避けることも大切です。

痛み・知覚異常(術後数年後)

手術を受けたところの痛みや違和感、しびれなどの知覚異常が起こることがあります。多くの場合、術後数ヵ月で自然に軽快しますが、長期に渡り日常生活の妨げになるような痛みが続く場合は、麻酔科やペインクリニックに相談することが勧められています。