がんと診断されたら、誰でも少なからずショックを受けると思います。「自分に限ってまさか」という人や、「頭が真っ白になった」「どうしていいかわからなくなった」という方も少なくないでしょう。
こうした心の動揺や不安を抱えるのは、診断時だけとは限りません。退院して実生活に戻ったときや、薬物治療を始めるとき、術後の治療を終えたあとなども、さまざまな思いが心の中をかけめぐり、今まで経験したことのないような不安や落ち込みなどの感情に襲われることがあります。
「がんの社会学」に関する合同研究班の調査(2004年)でも、がん体験者の悩みや負担のうち最も多かったのは「不安などの心の問題」であることが報告されています。
では、がんを告知された人の心の動きは、どのようなものでしょうか。
告知後は多くの人が激しいショックを覚えます。「なにかの間違いなのでは」と病気を否認する気持ちや、「もう治らないのでは」といった絶望感におそわれ、何も手に付かなくなることもあります(衝撃の時期)。
そうしたショック状態が治まると、今度は漠然とした不安感や気分の落ち込みに見舞われます。「食欲がない」、「眠れない」といった症状が続き、一時的に日常生活に支障をきたすこともあります(不安・抑うつの時期)。
しかし、人間には状況に適応する能力が備わっています。告知から2~3週間くらいたつと現実を受け止められるようになり、前向きな気持ちが湧いてきます。病気について勉強を始める意欲が湧いたり、保険の申請手続きを行う、といった現実的な行動ができるようになってきます(適応の時期)。
このように、通常は2~3週間程度で適応の時期を迎えることができるようになりますが、なかには、ひどく落ち込んで何も手に付かないような状態が長引き、日常生活に支障をきたすこともあります。こういう状態を「適応障害」といいます。
落ち込みの程度が強く、日常生活を送ることが困難な場合は「うつ病」になることもあります。さまざまな研究から、適応障害など心の問題は、がん患者さんの10~30%が経験することが知られています。
心の状態のチェック
心の状態は、本人も気づかないことが多いものです。チェックリストを使って今の状態を調べてみましょう。
以下の項目で5つ以上チェックがついたら、抑うつ状態の可能性があります。チェックBに進んだ方も、気分の落ち込みなどで日常生活に影響がある場合は、適切なサポートが必要な状態といえます。
自分で行えるストレス対処法
すべての悩みやストレスを解消する方法はありません。しかし、何かしら行動に移していくことで、自分にあった対処法が見つかることも多いものです。
下に示したストレスの対処法をヒントに、できるものから取り組んでみてください。自分らしいやり方でストレスに対処していくことが、気持ちの安定につながります。
自分でできるストレス対処法20
- 1. 自分にとって役立った対処法を思い出して実践する
- 2. 闘病記などを参考に他の患者さんの対処法を実践してみる
- 3. 身近な家族や友達に気持ちを打ち明ける
- 4. 日記をつけてみる
- 5. 自分の気持ちを書き出してみる
- 6. 問題点を整理してみる
- 7. 病気を忘れる時間をつくる
- 8. リラックスできる方法を工夫してみる
- 9. ユーモアに触れる
- 10. 1人で思いっきり泣く
- 11. 正しい情報を集める
- 12. 患者会やサポートグループに参加する
- 13. 心の専門家に相談する
- 14. 信仰を持つ
- 15. 自分を責めない
- 16. 断る勇気を持つ
- 17. 苦しみがずっと続かないことを知る
- 18. これまでの人生を振り返る
- 19. 自分の役割を考えてみる
- 20. 自分の行ってきた貢献を考えてみる
(日経メディカル編, pp.129、日経 BP 社.2007)より引用
困った時の相談先
気持ちの落ち込みが長く続く場合は、自分の今の気持ちを誰かに聞いてもらいましょう。ご家族でも友人でも、医師や同じ体験を持つ仲間でもかまいません。気持ちを話すことで、問題が整理されたり、不安感が和らぐことも多いものです。
それでも強い不安感を感じ、食欲がない、眠れない、心臓がドキドキする、といった症状が続く場合は、心の専門家(精神科医、診療内科医、心理療法士など)に相談して、カウンセリングや薬による治療を受けることも大切です。
医療機関によっては、「グループ療法」を行っているところもあります。グループセラピーとは、同じ病気の患者さん同士が集まり、グループで話しをすることで、病気に取り組む新たな気落ちと方法を見つけている方法の一つです。
同じ経験を持つ患者さんと話すことで、気持ちが軽くなったり、療養生活を快適に送る知恵が得られることもあります。
心の問題だけでなく、仕事や福祉制度に関する事、転院や在宅介護のことなどで悩みやトラブルを抱えている場合は、病院の相談窓口を利用してはいかがでしょうか。
相談の内容に応じて、専門の看護師やソーシャルワーカーなどから必要なサポートを受けることができます。
通院している施設に相談室や窓口がない場合は、地域がん診療拠点病院の相談室に連絡して問い合わせることも可能です。
よい相談の仕方 4つのポイント
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その1 1人で考え込まない
家族も大切な相談相手です。担当医や看護婦、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフも悩みを聞いてくれます。その際、できれば要領よく質問できるように、あらかじめ相談事項をノートなどにまとめておくとよいでしょう。
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その2 どんなことでも相談しよう
回答がなさそうで尋ねて仕方がないと思えることでも、自分の気持ちや、得た情報を整理するためには、相談することが役立ちます。話を聞いてもらうだけで、気分が落ち着くこともあります。
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その3 信頼できる情報を
インターネットを利用する際には、信頼できるサイトを利用しましょう。あふれる情報に振り回されないことが大切です。
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その4 ノートを使って情報を整理
ノートを利用して、診察や検査、相談を含むさまざまな情報を整理しながら、判断を重ねていきましょう。
また、財団法人日本対がん協会では、無料のがん相談窓口として、看護師と社会福祉士が相談に応じる電話相談「がん相談ホットライン」と、医師による電話相談や面接相談(事前予約制)を行っています。
専門家のサポートを受けることで、悩みが軽減したり、必要な対策を早めに講じることができることが期待できますので、相談したいことがあったら、一度問い合わせてみてもよいでしょう。