乳癌体験談

Case1:ステージIの乳癌で乳房温存手術とホルモン療法を受けた北林さんの場合

最終更新日 2017年8月2日

乳癌を治したい、でも女性性は失いたくない。交差する思いと共に臨んだ乳房温存手術とホルモン療法の過程をクローズアップ。

年齢:37歳(乳癌と診断された時)
乳癌のステージ:ステージI期
しこりの大きさ:約1.5cm
術式:乳房温存手術
術後のホルモン療法:リュープロレリン皮下注射3年、タモキシフェン7年

女性らしさを削られる喪失感。時間をかけて取り戻した乳房への愛情

写真:北林あいさん

左胸に見つかった乳癌は、ステージⅠ、しこりの大きさは約1.5cmでした。多発もなかったため、乳房を部分的に切除してがんを取り除く乳房温存手術を選択。手術では傷跡が見えにくい脇の下に近い場所にメスを入れ、背中の脂肪を寄せてもらい形よく乳房を残せました。

普通に考えれば、「乳房を残せてよかった」となるのですが、私は少し違いました。乳がんを宣告されて治療には必ず手術が必要と知った時、乳房にメスが入る=女性性を失うと思ってしまい、強いショックを覚えたものです。だから私にとっては、温存手術も全摘出もメスを入れることには変わりなく、すぐには「温存できてよかった」という感覚になれませんでした。「大切な乳房を残せてよかった」と心底思えたのは手術から数年後、時間の経過と共に病気を冷静に振り返れるようになり、頑張った自分の体を愛しいと思えてからです。

温存手術に関しては、乳房を残せてもしこりの位置などによっては、美容的に形よく残せない場合もあります。手術前にどの程度形が変わるのか医師に質問し、納得したうえで手術に臨むのがいいと思います。乳房を残せても整容性が保てないのであれば、全摘出と再建手術で満足度の高い乳房を取り戻すのも一案です。

術後は無理をせず人に頼って。ヨガによる体と心のリハビリも一助に

写真:北林あいさんインタビュー風景

術後は、幸いにして堪えられないほどの痛みはなく、退院後は比較的スムーズに日常生活に戻れました。違和感といえば、左胸やその周辺が引きつる感覚と左腕が肩までしか上がらなかったことです。それに伴う生活上の制限は、重い物を持てない、腕を伸ばして高いところの物が取れない、洗濯物を干しづらい等々。できないことは、人の手を借りてカバーすれば問題なかったです。あとは、人とすれ違う時などに誰かの肘が手術した胸に当たることが怖くて、人混みや満員電車では無意識に左胸をかばっていました。

引きつる感覚は時間が経つにつれて癒えていきます。腕の可動域を広げたいと思い、術後の体調でも無理なくできる運動はないかと探し、ヨガに出会いました。隣の人と競うのではなく自分のペースでできるヨガが、私の体と心にフィット。よいリハビリになり、その後に始めたホルモン療法では体重の増加に気をつけるように言われたため、ヨガは体重維持にも効果的でした。体を動かすと気分がすっきりするので、心のリハビリにもよかったと思っています。

副作用には適切なケアと、意識を症状から逸らし解放させる習慣を

写真:北林あいさんインタビュー風景

術後は放射線療法を経て、ホルモン療法が始まります。リュープロレリンの皮下注射を3年、経口薬のタモキシフェンを7年間使いました。開始前は様々な闘病記を読み、中には重い副作用でホルモン療法を断念した方もいて不安になりました。でも、身近な体験者さんに「同じ薬を使っても副作用の度合いは人それぞれだよ」と言われ、少し気が楽になったものです。

私の場合、ホルモン療法による主な体の変化は、一時的な無月経、ホットフラッシュ、膣の乾燥による性交痛でした。無月経になって生理用品を処分した時は、ちょっと切なかったですね。一時的とはいえ女性性をまた一つ、手放すような気がして。でも、月経痛から解放されるとそれなりに楽でしたし、月経がない状態にも自然と慣れていきました。また、突然カッと熱くなり、汗が滲み出るホットフラッシュは、初めての経験なので戸惑いました。首や額を冷たいタオルで冷やしたり、夏場は汗対策として外出時に着替え用のインナーを持参したりしてケア。私は、じっとしていると副作用に意識が向くので、仕事や趣味をしている方が気は紛れて楽でした。でも、体調が辛い時はゆっくり休むことも大事。優先順位の高いことだけを行い、他のことは次の日に回し完璧主義をやめて休むことを覚えました。

長期の薬物療法は、QOLを保ちながら行えるとベスト

ホルモン療法を始める時、その期間が7年と聞いて途方にくれたものです。でも、治療が進むにつれて、お薬は再発を防ぐお守り、ホットフラッシュは更年期障害の予行演習、そんなふうに思え、治療と折り合いをつけられるようになりました。そして、昨年夏にゴールとなる7年目を迎え治療を完走。再発を考えると“お守り”を手放すことに不安もありましたが、「やるべき治療はすべて行いました」と医師に宣言され、再発率を尋ねると極めて低い数字だったこともあり、最後は晴れやかな気持ちで治療を終えました。

薬物療法は長くつき合う治療です。期間が長い分、生活=治療ではなく、生活の一部に治療を取り入れる感覚でQOLを保ちながら行うことが大切。 不安や負担をがまんしてしまうと辛いので、自分なりに軽減する工夫をしたり、辛いときは遠慮なく医師に相談して薬の種類を再考したり、そのつど調整して進められるといいですね。

写真:北林あいさん

体験者:北林あいさん

フリーライター・乳がん体験者コーディネーター(BEC)・ピンクリボンアドバイザー(中級)。37歳で乳癌を告知され、左胸の温存手術、放射線療法を経て、昨年ホルモン療法を終える。現在は、医療・ヘルスケア分野を中心に取材・執筆活動を行いながら、ココカラプロジェクトメンバーとして検診啓発活動や、鎌倉・湘南記念病院乳がんセンターで乳がんと向き合う患者とその家族の支援活動に取り組んでいる。

■ココカラプロジェクト
http://cocokara-project.com/