乳癌治療の最新トピックス
~ラジオ波焼灼(しょうしゃく)治療を中心に~

取材・構成:リノ・メディカル株式会社

NO2. 乳癌の低侵襲治療・これからの課題と展望

症例数が少ないことが、ラジオ波焼灼治療のエビデンス構築を妨げている最大要因

日本におけるラジオ焼灼治療のエビデンス確立に向けた取り組みは、どの程度進んでいるのでしょうか?


井本結論から申し上げますと、比較試験での研究はなかなか困難な状況です。

ラジオ波焼灼治療は早期乳癌の患者さんが対象ですから、もともと生命予後がよい方が多いのです。そうしたなかで有効性を比較・検討するためには、数千例規模の比較試験が必要になりますが、ラジオ波焼灼治療の適応条件に合う患者さんは、早期乳癌の中でもごく一部に過ぎず、国内全部の症例を合わせても、圧倒的に数が足りません。まず、ここが大きなネックになっています。

また、ラジオ波焼灼治療のベネフィットを考えると、有効性だけでなく、安全性の確認や、侵襲性、利便性、整容性なども比較して、それぞれの優位性を検証することも必要です。こうしたことが検証できれば、一般診療として認められると思いますが、現在はその前の段階です。

では、これから何をしようとしているかというと、ラジオ波焼灼治療で焼灼したがん細胞が、確実に焼けて死滅しているかを確認する試験(第Ⅱ相試験)を計画しています。がん細胞が確実に焼けているかどうかは画像検査ではわからないので、ラジオ波焼灼後に組織生検をして確認します。

和歌山県立医科大学の尾浦正二先生が立ち上げられた「乳癌低侵襲治療研究会」では、多施設共同研究としてこのような試験を始める準備をしています。

その他の低侵襲治療(凍結治療と内視鏡下手術)について

日本でのラジオ波焼灼治療の状況についてお話しいただきましたが、海外ではどのような状況でしょうか?

井本ラジオ波焼灼治療の試験については、まだデータは出ていないと思います。
ただ、アメリカでは凍結治療(クライオサージェリー)という別の低侵襲の治療法について、ACOSOG(American College of Surgeons Oncology Group)で臨床試験が進められ、症例の集積までは終わっているようですので、結果についてはこれから解析されて発表されると思います。この凍結治療は、日本では亀田メディカルセンターの福間英祐先生が取り組んでおられます。

低侵襲の治療という点では、内視鏡下での手術も考えられますか?

井本内視鏡下手術は、ラジオ波焼灼治療とは考え方が大きく違います。
内視鏡下手術は、普通の手術のように大きく切開はしませんが、内視鏡を入れて乳房の内部のしこりを切除するので、基本的には外科手術と同じであり、ラジオ波焼灼治療のような厳しい適応基準はありません。ですから、乳癌の内視鏡下手術は保険が適用されています。

私自身は内視鏡下手術は行っていませんが、普通の手術に比べれば傷が小さく手術創が目立ちにくいことや、皮膚はそのまま残すので乳房再建がしやすい、といったメリットがあります。しかしその分、手術時間が長くかかります。通常なら2時間以内で終わる手術が、内視鏡を使うと4時間以上かかるということもあり得ます。また、傷が小さくても低侵襲の治療とはいえないかもしれません。いずれにせよ、普通の手術に比べて、より執刀医の技術を必要としますので、内視鏡手術に熟練した医師のもとで治療を受けられることがとても大切です。

カギは、画像診断も含めた総合的な治療法の進歩にあり!

乳癌の外科的治療について、今後の展望をお聞かせください

井本乳癌では、薬物治療や放射線治療が大きな進歩を遂げていて、外科手術は不要になるのではないか、といわれるまでになってきました。しかし、薬物治療や放射線治療がどれだけ進歩しても、外科的治療がなくなることはないと思います。

たとえば、薬物治療でしこりがなくなり、生検で細かく調べてがん細胞が見つからなければ「がんは消えた」ということになります。しかし、理論的に全部の細胞を調べることはできませんし、調べきれなかったところにがん細胞が残っていれば、再発する可能性もゼロにはなりません。また、非浸潤がんの場合は、薬が効かないことが多いので、切除手術が不要になることはないと思います。

では、今後の展望としてはどうか。私は、画像検査の精度が向上することによる治療の進歩が大きな役割を果たすように思います。

現在も非常に高い精度で画像診断を行うことができますが、画像検査がさらに進歩すれば、組織内に潜んでいるがん細胞の数を数千万から数千の単位で、正確に診断できるようになるかもしれません。そうなれば、手術をするのか、放射線治療で様子を見るのか、あるいは薬物治療だけ行うのか、という治療法の選択肢も増えて、より適切な治療が行われるようになると思います。

外科手術の技術だけが独自に進歩するのではなく、画像の診断技術や薬物治療、放射線治療などほかの治療法が進歩していくことが重要ですし、実際、がんの治療はそういう方向で進歩してきています。

今後もエビデンスを積み上げながら先進的な取り組みを続け、乳癌治療の進歩に貢献していければと思っています。

プロフィール

井本 滋(いもと しげる)  杏林大学医学部外科(乳腺)教授

1960年東京都生まれ。1985年慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部一般消化器外科、足利赤十字病院外科などを経て、1992年国立がんセンター東病院乳腺外科にて14年勤務。 2007年より現職。
センチネルリンパ節生検の国内での標準化に貢献した乳癌治療のスペシャリストの1人。バイオマーカーや新しい低侵襲手術に関する臨床研究においてもアクテイブに活動し、現在、乳管内進展の少ない2cm以下の乳癌を対象としたラジオ波焼灼治療の第II相臨床試験を行っている。また、国内外の臨床試験にも積極的に参加している。2012年日本乳癌学会のサテライトシンポジウム「乳癌ラジオ波焼灼療法-これまでとこれから」において「乳癌低侵襲治療の今後」をテーマに講演している。
日本外科学会専門医 日本乳癌学会専門医 日本がん治療認定医 日本乳癌学会理事 日本癌学会評議員 など