納得のいく治療を受けるために
「標準治療について理解を深めましょう」

最終更新日 2017年5月22日
取材・構成:リノ・メディカル株式会社

NO3. 再発後の治療戦略について

再発は、体内に潜んでいた微細な癌細胞が、初期治療などをくぐり抜けて生き残り、再び増殖することで起こります。再発リスクは、癌の性質や病期(ステージ)で異なりますし、再発の治療は、これまでどういう治療を受けて来たかによって異なります。
今回は、日本乳癌学会専門医の杏林大学医学部外科(乳腺)教授 井本滋先生に、再発後の治療戦略についてお話しを伺いしました。

転移再発後の治療の主体は「薬物療法」

手術後の治療とは異なり、再発した患者さんについては、再発時期や再発部位、進行度合いが人によって異なります。それぞれの状況や予後などを考慮して治療戦略を組まなければならないと思いますが、再発後の治療戦略としては、どのような点に気をつけたらよいですか?

井本再発は大きく2つに分けられます。1つは手術をした側の乳房やその周囲の皮膚、リンパ節に起こるもので、「局所再発」と言います。もう1つは、骨や肺、首のリンパ節など、乳房の原発巣から離れたところに再発するもので、「転移あるいは遠隔転移」と言います。

局所再発では、手術などの局所治療で根治を目指します。一方、転移したものは、がん細胞が乳房から離れたところに広がっているため、全身病的な扱いとなり、治療法も薬物療法が主体となります。

薬物療法を行う場合は、原発巣あるいは転移巣における生物学的特性(ホルモン感受性やHER2の有無)を調べたうえで治療方針を立てることになりますが、根治を目指した手術前・後の治療とは異なり、QOL(生活の質)を優先し、病気の進行を抑えてがんとの共存を図る治療が基本になります。

転移・再発乳がんに対する治療のおおまかな流れ

遠隔転移
ホルモン感受性あり、かつ生命を脅かす病変なし
ホルモン感受性なし、かつ/または生命を脅かす病変あり
過去1年以内にホルモン療法なし
過去1年以内にホルモン療法あり
第1次ホルモン療法*
第2次ホルモン療法
第3次ホルモン療法まで
HER2陽性
HER2陰性
分子標的薬± 抗がん剤
抗がん剤
第3次抗がん剤まで検討
*閉経前の女性:卵巣機能抑制剤+抗エストロゲン薬による治療
 閉経後の女性:抗エストロゲン薬またはアロマターゼ阻害薬による治療

※ 転移・再発乳癌に対する治療については「乳癌ナレッジ」をご覧ください

転移・再発乳癌に対する治療

局所再発:乳房温存手術後の乳房や、手術で切除した乳房側の胸壁やリンパ節に再びがんが見つかることをいいます。悪性度にもよりますが、遠隔転移を伴っていない局所再発であれば根治を目指すことが可能です。
遠隔転移:「肺」や「肝臓」、「骨」など、乳房とは離れた臓器に乳癌が見つかることをいいます。遠隔転移が見つかった場合は、完全に治すのが難しいのが現状です。このため、癌の進行を抑えたり、症状を和らげるなどして生活の質(QOL)を保ちながら、がんと共存するための治療を行います。
―詳しくは「再発・転移してしまった場合」をご覧くださいー

再発も、サブタイプに基づいた薬物治療がベースになりますか?

井本はい。この点は基本的には初期治療と同じですが、再発後の治療の場合、以前どういう治療を受けて来たかということも、治療法を選ぶ重要なポイントになります。

たとえば、ホルモン療法が有効なルミナールタイプの乳癌を例にお話ししますと、再発のし方には、大きく次の3つのケースがあります。

1つ目は、手術後のホルモン療法を開始して間もないうち(ほぼ2年くらい)に再発するケース。

2つ目は、手術後のホルモン療法を継続している最中(ほぼ2年以降)、または終了後1年以内に再発するケース。

3つ目は、手術後のホルモン療法を終了後、数年してから再発するケースです。

1つ目のように、ホルモン療法を開始したあと、すぐに再発するような場合は、もともとホルモン療法に抵抗性であったことが想定されますので、ホルモン治療を中止して別の治療法に切り替えることを検討する必要があります。

2つ目のように、手術後のホルモン療法を継続している最中、または終了から1年以内に再発した場合は、薬への耐性ができたため効き目がなくなったと考えられます。この場合は、別のホルモン療法薬に切り替えると効果が得られる可能性があります。

3つ目のように、ホルモン療法を終えたあと、数年経ってから再発してきた場合は、ホルモン療法によってがんの進行が抑えられていたものの、治療終了後に骨髄中などに潜んでいたものが、「また暴れるか」といって出てきたと考えられます。乳癌では比較的よく見られるケースです。このような場合は、一度使ったホルモン療養薬を含めたホルモン療法の有効性が期待できます。

「Her2陽性」や「トリプルネガティブ」タイプの場合も、使える薬剤の有効性や副作用を勘案しながら1次、2次、3次と治療をつないでいきますが、その間、病気がある程度安定してきた場合は、「ドラッグホリデー」といって、いったん薬をやめてみる、という考え方もあります。休息期間を設けることで、副作用から逃れて体力を温存することが主な目的ですが、同時に、薬の中止によって病状がどのように変化するかを確認することで、薬剤の選択に役立てることにも使われます。

乳癌のサブタイプ

乳癌には、生物学特性によっていくつかのタイプがあり、それぞれ性質が異なります。サブタイプには、「ルミナールA」「ルミナールB(HER2陰性)」「ルミナールB(HER2陽性)」「HER陽性(非ルミナール)」「トリプルネガティブ(基底細胞型)」「特殊型」があります。
―詳しくは「サブタイプの判定と術後治療の進め方」をご覧くださいー

再発の治療は、患者さんの状態に応じたきめ細かな調整が必要になりますね

井本そうですね。再発後の治療は、治療を進めていくうち、相手も強力になっていくので、奏効する期間が短くなっていくのが一般的です。ただ、再発したあとも、1次治療が効いて、2次治療が効いて、少し治療を休んだあと、3次治療を続けているうち「気がついたら再発してから7~8年たっています」という人もいらっしゃいます。実際、再発後の治療がどれだけ有効かは、試してみなければわからない部分も多いので、医師と十分に相談し経過を診ながら治療を続けていくことが大切です。

先生から患者さんに、納得のいく治療を受けるためのアドバイスをお願いします

井本乳癌の治療は日進月歩で進んでいます。また、ガイドラインもWebサイトで検索できるようになるなど、意欲があれば、患者さん自身が、質の高い情報にアクセスできる環境になりました。患者さんも「自分がどういう状況でどんな選択肢があるのか」を知っておくことが大切です。

いま、乳癌の生存率は8割を超えています。10割ではないのはとても残念ですが、他のがんに比べればはるかに治るがんですので、積極的に治療に参加されて、医師の説明をよく聞き、またご自分の意見を持って治療に臨むようにしていただきたいと思います。

複数の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」を利用する

セカンドオピニオンとは、診断や治療法について、担当医とは別の医師の意見を聞き、参考にすることをいいます。受診時期に特に決まりはありませんが、目安としては、乳癌という診断を確認したい場合や、初期治療を受ける際に、どのような選択肢があるかを確認したい場合、また、転移や再発したときには、治療方針を決める場合などが、セカンドオピニオンを受けるに適した時期といえます。
詳しくは「複数の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」を利用する」をご覧くださいー

ありがとうございました。

次回は、

  • しこりが何cmなら乳房温存手術の適応?
  • きれいに治す乳癌手術を目指して
  • 乳房再建術を受けるには?

というテーマでお話しをうかがいます。

プロフィール

井本 滋(いもと しげる)  杏林大学医学部外科(乳腺)教授

1960年東京都生まれ。1985年慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部一般消化器外科、足利赤十字病院外科などを経て、1992年国立がんセンター東病院乳腺外科にて14年勤務。 2007年より現職。
センチネルリンパ節生検の国内での標準化に貢献した乳癌治療のスペシャリストの1人。バイオマーカーや新しい低侵襲手術に関する臨床研究においてもアクテイブに活動し、現在、乳管内進展の少ない2cm以下の乳癌を対象としたラジオ波焼灼治療の第II相臨床試験を行っている。また、国内外の臨床試験にも積極的に参加している。2012年日本乳癌学会のサテライトシンポジウム「乳癌ラジオ波焼灼療法-これまでとこれから」において「乳癌低侵襲治療の今後」をテーマに講演している。
日本外科学会専門医 日本乳癌学会専門医 日本がん治療認定医 日本乳癌学会理事 日本癌学会評議員 など