乳房の異常に気づいたら…

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取材・構成:リノ・メディカル株式会社

NO.1 増えている乳癌。こんな症状があったら要注意!

杏林大学医学部外科(乳腺)教授 井本 滋(いもと しげる)
杏林大学医学部外科(乳腺)教授
井本 滋(いもと しげる)

乳癌は、比較的若い30代から40代の女性でも発症することの多いがんです。「まだ若いから」と油断せず、しこりや乳頭からの出血・分泌物などの乳房の異常に気づいたら、専門医を受診して必要な検査を行うことが大切です。

今回は、乳房の異常に気づくための自己検診(セルフチェック)の仕方や鑑別のポイント、安心して受診できる医療施設の選び方などについて、日本乳癌学会専門医の杏林大学医学部外科(乳腺)教授 井本 滋先生に伺いました。

全年齢層で増加する乳癌。若い人も他人事ではない

今、日本人の女性の16人に1人が乳癌にかかると言われています。診療をされていて、乳癌の方が増えているという実感はありますか。

井本たしかに、あらゆる年齢で乳癌患者さんは増えているという印象があります。

たとえば、昔は若くして乳癌が見つかると、「おやっ、珍しいな」という感覚がありましたが、今では若くして見つかることも稀ではなく、特に30歳代の乳癌については、特別なことという意識はなくなりました。

下のグラフは、国立がん研究センターが報告している年齢別罹患率のデータです。約20年前に比べると、各年代で患者さんが大幅に増えていることが分かりますね。
ちなみに、欧米の場合、乳癌罹患率は40歳あたりから増え始め、70歳代まで段階的に罹患率が上昇していくのに対し、日本の場合は、40代後半と60歳前後に罹患率のピークがある二峰性となるのが特徴です。

なぜこうした違いがあるのか、結論は出ていませんが、韓国や中国でも日本と同じような特徴を示すことから、欧米人と我々アジア人では、女性ホルモンの代謝に何らかの違いがあるのではないかとも考えられています。

乳癌罹患率 説明図

なかには「がん家系ではないから乳癌にはなりにくい」、と思っている方もいらっしゃるようですが、実際はどうでしょうか?

井本よく「がん家系」という言い方を耳にしますが、すべてのがんを一括りにして論じることはできませんので、乳癌に絞ってお話ししたいと思います。

確かに、母親や姉妹が乳癌に罹患しているという家族歴がある場合、乳癌になるリスクは高くなります。また、血縁者に乳癌の患者さんが多数いる場合、遺伝的な要因を受け継いでいることがあります。
ただし、少子化で身内の女性の数が少なく、姉妹の数も限られている現代では、身内に乳癌になった人がいないからといって、こうした遺伝的な要因がない、とは言い切れません。一人っ子であれば、なおさら気づきようがないこともあります。

他にも、初経年齢が早い、出産経験がない、というように女性ホルモン(エストロゲン)にさらされる期間が長いことが乳癌の発症リスクを高める要因になることが知られていますが、こうしたことがなくても、現在の日本では、食生活の欧米化などさまざまな要因が関連して乳癌の発症を引き起こしていると考えられています。
心配しすぎるのもよくありませんが、「どんな人でも乳癌になる可能性はある」と考え、早期発見を心掛けることが大切です。

【乳癌の主なリスク要因】
  • 初経年齢が若い
  • 高齢初産(または出産歴・授乳歴がない)
  • 閉経後の肥満
  • ホルモン療法(プロゲステロン併用療法)の長期施行 など
  • 初経年齢が若い

―詳しくは「乳癌リスク度チェック」、「乳癌の発症理由(リスク要因)」をご覧ください―

乳癌の早期発見のために、月に1度は自己検診(セルフチェック)を!

乳癌の早期発見のためには、どんなことに気をつけたらいいでしょうか。

井本乳癌は、自分で徴候に気付くことのできる数少ないがんの1つですので、定期的に「乳房の自己検診」を行ったり、「乳癌検診」を定期的に受けて、異常を見逃さないことが大切です。

特に若い方では、自己診断が早期発見につながる一番のきっかけになりますので、月に1度、乳房のセルフチェックを習慣づけるとよいでしょう。

自己検診(セルフチェック)に適した時期はありますか?

井本乳腺の状態は、月経周期に伴って変化します。生理がある方の場合は、乳腺が張っている排卵後から生理前を避け、生理になって7~10日以内、乳房が柔らかくなる時期が適しています。

閉経している方の場合は、ホルモンレベルはほぼ一定なので、月に1回、日を決めて、自己検診を行うことが勧められています。

自己検診 イラスト

【自己検診の方法】
  • しこりが見つけやすい時期:月経が始まって1週間~10日頃(閉経後の方は、月に1回、日を決めて)
  • 触診のコツ:指先で乳房をつままない(しこりと間違えやすくなるため)
  • しこりの見つけ方:①鏡に向かって違和感がないか観察 ②仰向けに寝て(左右それぞれ)指の腹で触りながら確認

―詳しくは「セルフチェックの方法・コツ」をご覧ください―

どんな点を注意して自己検診(セルフチェック)を行うとよいですか?

井本一般に、乳房内は、年齢とともに乳腺が減って脂肪が増えてくるので、乳房を触った感じもだんだんソフトになってきます。しかし、これも個人差があり、高齢であっても、若い方と同じくらい乳腺が豊富な方もいらっしゃいます。

乳房の異常に気づくためには、まずご自分の正常な乳房の状態を把握しておくことが、とても大切です。乳癌の検査を受けて正常であることが分かったときは、そのときの感触を覚えておかれるとよいでしょう。

なお、「閉経すると、卵巣機能が低下して女性ホルモン(エストロゲン)がつくれなくなる」と誤解している方が多いようですが、そんなことはありません。
閉経すると、卵巣由来の女性ホルモンはなくなりますが、代わりに副腎から分泌される男性ホルモンが、脂肪や乳腺内に多くある「アロマターゼ」と呼ばれる酵素の働きによってエストロゲンに変わり、産生され続けます。

実際、乳腺の組織をとって女性ホルモンの量を調べると、高齢の女性でも、若い女性と大きな変化はありません。
閉経したからといって、エストロゲンが無くなるわけではなく、引き続き身体に影響を及ぼしているということは覚えておいてください。

乳癌を発見する手がかりとなる症状はありますか?

井本主な症状には、次(表1)のようなものがあります。

このうち、乳癌発見のきっかけで一番多いのが、乳房内のしこりです。
また、乳房の皮膚の変化や、乳頭から血が混ざった分泌物が出るような場合も、乳癌を知らせるサインとなります。

もちろん、こうした症状があっても乳癌とは限りません。良性の疾患でも、よく似た症状を示すものもあります。しかし、気になる症状があり、それが月経周期に関わらず続くような場合は、ためらわず、専門の医療機関を受診してください。

表1自己発見の手がかりとなる主な自覚症状
  • しこりがある
  • 乳房の皮膚に、ひきつれやくぼみがある
  • 乳頭がへこんだり、陥没している
  • 乳頭から血の混じった分泌物が出る
  • 乳房の皮膚がオレンジの皮のように変色している
  • 乳頭がただれたり、びらんが生じている
  • 脇の下にグリグリしたしこりがある
次回は
  • そのしこり、良性腫瘍?悪性腫瘍?
  • 乳癌検診は、マンモグラフィと超音波検査のどちらを受ければいいの?
  • 乳腺専門医のいる医療機関はどこ?

などについてお話を伺います。

プロフィール

井本 滋(いもと しげる)  杏林大学医学部外科(乳腺)教授

1960年東京都生まれ。1985年慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部一般消化器外科、足利赤十字病院外科などを経て、1992年国立がんセンター東病院乳腺外科にて14年勤務。 2007年より現職。
センチネルリンパ節生検の国内での標準化に貢献した乳癌治療のスペシャリストの1人。バイオマーカーや新しい低侵襲手術に関する臨床研究においてもアクテイブに活動し、現在、乳管内進展の少ない2cm以下の乳癌を対象としたラジオ波焼灼治療の第II相臨床試験を行っている。また、国内外の臨床試験にも積極的に参加している。2012年日本乳癌学会のサテライトシンポジウム「乳癌ラジオ波焼灼療法-これまでとこれから」において「乳癌低侵襲治療の今後」をテーマに講演している。
日本外科学会専門医 日本乳癌学会専門医 日本がん治療認定医 日本乳癌学会理事 日本癌学会評議員 など