乳房の異常に気づいたら…

最終更新日 

取材・構成:リノ・メディカル株式会社

NO.2 安心して医療機関を受診するために

前回のインタビューでは、乳癌の主なリスク要因(初経年齢が若い、閉経後の肥満など)や、乳癌の早期発見のために重要な、乳房の異常(しこり、乳頭の分泌物など)に気づくための自己検診(セルフチェック)の仕方をお伺いしました。今回は、引き続き日本乳癌学会専門医の杏林大学医学部外科(乳腺)教授 井本 滋先生に、「マンモグラフィと超音波検査(エコー)のどちらを受ければよいのか」、「乳がん検診のアドバイス」などについてお聞きします。

がんと間違えやすい主な病気とは…

乳癌と間違えやすい病気としては、どんなものがありますか?

井本代表的なものとしては、「乳腺症」「線維腺腫」「乳腺嚢胞(のうほう)」などがあります。

「乳腺症」は、30~40歳代の女性で多くみられる良性の病気で、主に女性ホルモンのバランスが崩れることで起こります。視触診や画像検査では乳癌との判別が難しいことが多いですが、乳腺症では、月経周期と連動してしこりの大きさや痛みが変化することが特徴です。検査で乳腺症と分かれば、治療の必要はなく、経過観察で様子をみます。

「線維腺腫」は、20~30歳代の女性に見られることが多い良性の腫瘍です。 しこりに触ると表面が滑らかでクリッとした感触があり、触るとよく動くのが特徴です。乳癌のように転移することはないため、特別な治療は必要ありませんが、まれにしこりが急に大きくなることがあります。このような場合は、摘出手術を行うこともあります。

「乳腺嚢胞」は、乳腺から分泌された液体が乳管に溜まり、袋状になったものをいいます。30~50歳代で見つかることが多く、多くはマンモグラフィや超音波検査によって判別できます。基本的には乳腺症の一症状であり、病気というより生理的な変化ですので、「乳腺嚢胞」と診断された場合は、治療の必要はありません。

他にも、「葉状腫瘍」「乳管内乳頭腫」という乳癌とは別の腫瘍が見つかることがあります。基本的にどちらも良性の腫瘍ですが、「葉状腫瘍」はときに悪性のものに変化することがあるため、原則として手術で腫瘍を切除します。「乳管内乳頭腫」は時に乳管内に限局した癌と区別がつかないことがありますので、診断当初は3~6ヵ月毎に超音波検査を行って大きさや形に変化があれば、摘出生検を行います。数ミリ大の病変で変化がなく、血性の乳頭分泌もなければ、検査の間隔を開けて様子をみていきます。

乳房の異常に気づいたら?

  • 自己検診(セルフチェック)でしこりがある
  • 乳頭から分泌物が出る
  • 乳頭の陥没や乳房のくぼみがある
  • 房の皮膚表面に痛みや熱感を伴う

詳しくは「乳癌リスク度チェック」、「乳癌のおもな自覚症状」をご覧ください

異常に気づいたら、1人で悩まず乳腺専門医のいる医療機関を受診しよう!

乳房の異常に気づいた場合、どんな医療機関を受診したらよいのでしょうか。

井本基本的には、乳腺科や乳腺外科など、乳腺を専門に診る診療科がある医療機関を受診されるとよいと思います。

日本乳癌学会」のホームページをチェックしていただくと、地域別に、認定施設や専門医の名前が公開されていますので、これらを参考にされるとよいでしょう。

また、特に地方などでは、産婦人科医の中にも、乳腺を得意としている先生がおられますので、乳がん検診を実施している産婦人科であれば、受診されてもよいと思います。

また、マンモグラフィ検診を受ける場合は、「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会」という審査機関があり、ホームページで、検査環境の整った施設や読影資格を持つ医師のリストなどが掲載されていますので、こちらも参考になさるとよいと思います。

病院では、主にどのような精密検査が行われるのでしょうか?

井本患者さんの状態によっても異なりますが、通常は、一次検査(スクリーニング検査)として、問診や視触診、マンモグラフィと超音波(エコー)による画像検査を受けていただきます。ここで、疑わしい結果が出たら、細胞診や組織診などの精密検査に進みます。

もちろん、精密検査に進んでも、がんであるとは限りません。9割以上はがんではなく、良性のものですから、あまり気をもまないようにしてください。

実際の精密検査の種類や進め方などは、患者さんの状態によっても違いますので、分からないことがあったら、医師に聞いて確認しておくとよいでしょう。

マンモグラフィと超音波検査(エコー)、それぞれの特徴を生かした乳がん検診の仕方

次に、健康な方を対象とした一般の乳がん検診について伺います。会社で行う乳がん検診などでは、マンモグラフィと超音波検査(エコー)のどちらかを選択できる場合があるようです。選択にあたって、どのように考えるとよいでしょうか。

井本一般的に、40歳以上の人に対しては、マンモグラフィ検診を基本に考えます。ただし、マンモグラフィでは、乳腺が発達していると、乳腺が白く写って画像がかすんでしまい、異常が見つけにくくなります。このため、乳腺密度が濃い30歳代は超音波検査(エコー)を選ぶことをお勧めします。または40歳代でも、乳腺密度が濃い方では、超音波検査(エコー)を選択した方がよいでしょう。

私自身、患者さんから、似たような相談を受けることがあります。30~40歳代の方に対しては、乳腺の状態をもとにケースバイケースで判断しています。ときには、「交互にできるのなら、1年ずつ変えてもいいかもしれません」とアドバイスすることもあります。有効性を示すエビデンスはありませんが、毎年検診を受けることができるのであれば、そういう方法も選択肢の1つではないかと思います。

検診の種類と特徴(参考)
住民検診 職場検診
(主婦検診含む)
個人検診
特徴 市区町村が住民対象に行っている検診 勤務先の健康保険組合または事業所(会社)で行っている健康診断 自分で検査施設を選んで行う検診
対象年齢 40歳以上を対象とすることが多い 健康保険組合または事業所によって異なる 特に問わない
検査方法 2年に1回、視触診とマンモグラフィが原則 健康保険組合または事業所によって異なる 検査方法を選べることが多い
費用 費用の一部は助成されるので低価格 費用の一部は助成されるので低価格 検診には健康保険は使えないため全額自己負担
乳がん検診には、自治体(市区町村)が住民を対象に行っている「住民検診」、職場や組合の健康保険が行っている「職場検診」、人間ドックのように自分で施設や検査内容を選んで受診する「個人検診」の3つに分けられます。
自治体が行っている住民への乳がん検診では、40歳以上を対象に、マンモグラフィ検査を2年に1回行うことが推奨されています。

自治体による住民検診では、40歳以上を対象にしたマンモグラフィ検診が基本とされていますが、マンモグラフィだけでなく、超音波検査(エコー)を併用したほうが、乳癌を早く発見できるのではないでしょうか。

井本いえ、併用すれば早期発見につながるとは必ずしも言えません。また、公費で行うがん検診の目的は、早期発見を目指すということではなく、死亡率を低下させ、しかも安心で費用対効果に優れた検査の仕組みをつくることにあります。

そこで重要になるのが、死亡率を下げられるというエビデンス、つまり科学的な根拠です。今のところ、そうしたエビデンスがあるのは、40歳以上に対するマンモグラフィ検診だけで、それ以外、乳癌による死亡率を低下させることを証明しているものはありません。

これについては、現在、東北大学の大内憲明先生が研究リーダーとなり、40歳代の女性を対象に「マンモグラフィ単独群」と「マンモグラフィと超音波検査(エコー)の併用群」に分けて、乳がん検診における超音波検査(エコー)の有効性を検証する比較試験が行われています。

結果はまだ出ていませんが、すでに7万人を超える方が参加されているとのことですので、結果が出れば、今後の40歳代の日本女性の検診のあり方を決定づけることになると思います。

超音波検査(エコー)とマンモグラフィどちらを受けるべき?

  • 超音波検査(エコー)とマンモグラフィは、年齢に合った検査方法を選択する必要がある
  • 現状の検査方法に対する医師の見解は?
  • 超音波検査(エコー)、マンモグラフィってどんな検査?

詳しくは「乳がん検査に関するリサーチ結果」をご覧ください

乳がん検診を受けていない若い女性では、自己検診(セルフチェック)が特に重要

乳癌は、若い人ほど発見が遅れがちになると聞いたことがありますが、実際はどうでしょうか?

井本確かに、35歳未満の若年性乳癌と、35歳以上の乳癌を比較した調査によると、若年性乳癌の患者さんでは、発見時の腫瘍サイズが大きく、臨床病期も進んでいることが報告されています1)。

要因としては、40歳未満の若い方は、乳癌検診の対象から外れていることや、若い女性の乳房は張りがあるため、しこりが小さいうちは見つけにくいことが関係していると思われます。

ですから「まだ若いから」と油断せず、日頃から、乳房の自己チェックを行い、異常をみつけたら、専門の医療機関でチェックしてもらうことが大切です。

若い人も、定期的に乳がん検診を受けておく必要があるでしょうか?

井本会社の健康診断などで検診を受ける機会がある方は、利用されるとよいと思います。ただし、異常がない健康な若い人が検診を受ける場合、メリットよりデメリットの方が多くなる可能性があることも知っておく必要があるもしれません。

検診というのは「見逃しがない」ことが重要ですので、少しでも疑いがあれば、再検査となります。本当は乳癌でなくても、再検査が必要となれば、針生検などによる検査時の痛みや、検査費用による金銭的負担、さらに結果が出るまでの精神的な負担も重なります。もちろん、家族性乳癌のように、遺伝的な要因が考えられる方では、定期的な検診や観察が重要ですが、無症状で健康な20~30代の女性の場合は、自己検診を基本とし、異常を感じたら専門医に診てもらうのが原則と言えるでしょう。

「怖がらない」でも「侮らない」を心掛けよう

その他、乳がん検診についてアドバイスがあればお聞かせください。

井本「がん」と聞くと、根拠もなく「自分はならない」と思い込んでいる人と、「もしかしたら、がんかもしれない」と過剰に不安になってしまう人との両極端に走りがちです。しかし、大切なのは、「自分も、がんになる可能性はある」という意識を持ったうえで、日頃から自己チェックを怠らないことです。

また、乳房に異常を感じた場合は、慌てて近くの病院を受診するのではなく、乳腺の専門医のいる医療施設で、しっかり鑑別していただきたいと思います。

乳癌は、早めに見つかれば、治癒する可能性が高い疾患です。怖がらず、侮らず、身近な病気である、という自覚を持って、月に1度の自己検診(セルフチェック)を行い、定期的に乳がん検診を受けてください。

ありがとうございました。

次回は

  • 医師から「標準治療をもとに治療を進めますといわれたら?」
  • 「診療ガイドラインは絶対に守るべきもの?」
  • 「担当医ごとに治療方針が異なるときは?」

というテーマでお話をうかがいます。

参考1)厚生労働省「若年乳癌患者のサバイバーシップ支援プログラム」ホームページ
http://www.jakunen.com/html/tokucho/yogo.html

プロフィール

井本 滋(いもと しげる)  杏林大学医学部外科(乳腺)教授

1960年東京都生まれ。1985年慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部一般消化器外科、足利赤十字病院外科などを経て、1992年国立がんセンター東病院乳腺外科にて14年勤務。 2007年より現職。
センチネルリンパ節生検の国内での標準化に貢献した乳癌治療のスペシャリストの1人。バイオマーカーや新しい低侵襲手術に関する臨床研究においてもアクテイブに活動し、現在、乳管内進展の少ない2cm以下の乳癌を対象としたラジオ波焼灼治療の第II相臨床試験を行っている。また、国内外の臨床試験にも積極的に参加している。2012年日本乳癌学会のサテライトシンポジウム「乳癌ラジオ波焼灼療法-これまでとこれから」において「乳癌低侵襲治療の今後」をテーマに講演している。
日本外科学会専門医 日本乳癌学会専門医 日本がん治療認定医 日本乳癌学会理事 日本癌学会評議員 など