乳癌ナレッジ 乳癌に関する基礎知識。関連するQ&Aも掲載。?を感じたら質問も可能です。

乳癌ってどんな病気?

開く乳癌の発生部位関連1

乳癌の発生部位 説明図

乳癌は、乳腺組織に発生する悪性腫瘍です。
乳腺組織は母乳を作る「小葉」と母乳を乳頭まで運ぶ「乳管」に分けられます。

乳管から発生したものを「乳管がん」、小葉に発生したものを「小葉がん」、乳管開口部付近に発生したものを「パジェット病」と呼びます。乳癌の約90%は乳管から発生した乳管がんです。

悪性腫瘍とは?

細胞が異常に増殖してできたものを「腫瘍」といいます。腫瘍の発生には遺伝子の変異が関係しますが、変異がいくつも重なることで周辺の組織に浸潤したり、他の臓器に転移するものが悪性腫瘍です。悪性腫瘍は放置すると全身に転移し、最終的に命を脅かすことになります。
一方、良性腫瘍は、遺伝子の変異は少なく、増殖しても浸潤したり転移することがないので、一般に命を脅かすことはありません。
腫瘍が良性か悪性かは、生検や細胞診で、細胞の顔つきや組織の状態を調べる病理検査で判別します。

開く乳癌の種類

乳癌は「非浸潤がん」、「浸潤がん」、「パジェット病」の3つの種類に大別されます。

  • 「非浸潤がん」は乳管内にとどまっている早期のがんです。転移を起こすリスクは低いので手術で切除すればほぼ100%完治します。
  • 「浸潤がん」は乳管や小葉の外まで広がっているものをいいます。がん細胞が血管やリンパ管に流入することで、周囲のリンパ節や乳房以外の臓器に転移する可能性があります。
  • 「パジェット病」はしこりをつくらず乳頭を中心に皮膚炎のような症状をみせながら周囲に広がるタイプの乳癌です。通常は転移を起こすことがなく、予後のよいがんです。
  • 予後:病気の経過や終末に関する医学的な見通しのこと。
非浸潤がん がん細胞が乳管または小葉の中に留まっているもの。
転移を起こさない早期のがん。
浸潤がん がん細胞が乳管や小葉の外にまで広がっているもの。
転移する可能性がある。
パジェット病 乳頭近くの乳管内に発生した特殊なタイプの乳癌。
乳頭の湿疹や赤み、びらんが発見の手がかりになる。

開く乳癌の好発部位

部位別の乳癌発生頻度
部位別の乳癌発生頻度 説明図
全国乳癌患者登録調査報告 第32号2000

乳癌が最もできやすい部位をエリア別にみると、左右ともにわきの下に近い乳房の外側上部が半数近くを占めており、次に内側上部外側下部と続きます。外側上部が多いのは、この部分に乳腺組織が最も多く集まっているためと考えられています。

開く乳癌の症状

乳癌発見のきっかけとして最も多いのは「しこり」です。通常痛みはありませんが乳腺症を合併した場合や炎症性乳癌などでは痛みを感じることもあります。
最近は画像診断が発達したため、しこりなどの自覚症状がないうちに乳癌検診などで発見されることも増えています。

乳癌の主な自覚症状

しこり 乳癌が0.5~1cm位の大きさになると自分の手でしこりとして認識できるようになります。通常しこりに触れても痛みはありません。
乳頭から血の混じった分泌物が出る がん細胞が乳頭にまで達すると乳頭から分泌物が出てきます。非浸潤がんは、しこりなどの自覚症状がなく検診で発見される率が増えていますが、乳頭から血性の分泌物が出ることで異常に気づくこともあります。
乳頭の陥没や乳房のくぼみ がんが乳房の皮膚や乳頭に近いところに達することで現れることがあります。
乳房の皮膚表面がオレンジの皮のようになる 炎症性乳癌で多く見られる症状です。他にも炎症性乳癌では、痛みや熱感を伴うなど乳腺炎とよく似た症状を示すことが知られています。
乳頭のただれや周囲の皮膚の湿疹 パジェット病でみられる症状です。
乳房近くのリンパ節の腫れ(腕のむくみしびれ) 乳房近くのリンパ節に転移した場合、リンパ節が腫れたり、周囲の神経が圧迫されて腕がむくんだりしびれることがあります。
  • 炎症性乳癌:しこりがなくがん細胞が乳房全体に広がる特殊なタイプの乳癌。進行が早く悪性度が高い。

開く乳癌のリスク要因関連2

乳癌の発生や増殖には、女性ホルモンであるエストロゲンが関与していることから、生涯の分泌量が多くエストロゲンにさらされる期間が長いほど発症リスクは高くなることが知られています。このため初経年齢が早いこと、閉経年齢が遅いこと、出産・授乳経験がないことなどがリスク要因となります。またエストロゲンは閉経後も脂肪組織で作られるため、閉経後の肥満もリスク要因に挙げられます。さらに乳癌の家族歴や良性の乳腺疾患の既往などがある場合も乳癌になりやすいことが知られています。
他にも、夜間勤務やアルコールのとり過ぎなどがリスク要因となることが最近の調査で明らかになってきました。

乳癌の主なリスク要因

  • 初経年齢が若い
  • 初経から閉経までの期間が長い
  • 高齢初産(または出産歴・授乳歴がない)
  • 閉経後の肥満
  • 良性の乳腺疾患になったことがある
  • 家族(特に母姉妹)が乳癌になったことがある
  • 出生時の体重が重い
  • ホルモン補充療法(プロゲステロン併用療法)の長期施行
  • 放射線の被曝
  • 喫煙
  • 夜間勤務
  • アルコールの摂取量が多い など

参考:日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン②疫学・診断編」2011年版

  • これらに該当しなくても、女性であれば誰でも乳癌にかかる可能性がありますので、定期的な検診を受けることが大切です。

開く乳癌の罹患率関連1

乳癌にかかる女性は世界的に増加しています。日本でも1995年以降、乳癌は女性のがん罹患率のワースト1となり、国内の新規乳癌患者数は年間6万人以上(2007年統計)と、患者数死亡者数ともに増え続けています。
増加の要因としては、食生活の欧米化により栄養状態が良くなり成長が早くなったため初経年齢が早く閉経が遅くなっていること、また、晩婚化や少子化、初産年齢の高齢化などライフスタイルの変化によりエストロゲンにさらされる期間が長くなっていること、などが指摘されています。
乳癌は男性にも発症しますが、罹患率は女性患者さんの1%程度と少なく、高齢者に多いのが特徴です。

開く年齢別罹患率

女性乳癌の年齢別罹患率 説明図

乳癌の罹患率を年齢別にみると欧米では60歳以降がピークとなるのに対し、日本では30歳代から急上昇し、 40代後半から50代の働き盛りにピークがみられるのが特徴です。ただし最近は各年代で増加しており30代の若い女性や70歳以降の高齢の女性で見つかることも増えています。

診断前の検査

開く検査と診断の流れ関連1

検査と診断の流れ 説明図

乳癌の検査には、大きく分けて、乳癌かどうかを診断するための検査と、乳癌と診断された後に行う検査があります。

診断前の検査には、マンモグラフィ超音波(エコー)による画像検査と視触診があります。ここで乳癌が疑われたら、本当にがんかどうかを細胞レベルで確認するため、細胞診、針生検(組織診)に進みます。

生検の結果、乳癌と診断された場合は、がんの広がりを調べる画像検査や生検などの結果をもとに、治療方針を立てていきます。

開く乳癌を見つける画像検査

マンモグラフィ

マンモグラフィ検査
マンモグラフィ検査 説明図
乳房を挟んで上下、左右方向から撮影します。

乳房専用のレントゲン検査をいいます。乳房を挟みながら圧迫して薄くのばし、上下、左右(内外)方向から1枚ずつ撮影します。小さいしこりや、しこりになる前の石灰化を映し出すことができるため、乳癌の早期発見に威力を発揮します。

ただし、乳腺組織が密な若い女性では、X線の画像が白くかすんでしまい、しこりをみつけにくいことがあります。また、X線撮影のため、妊娠している方には不向きです。

「石灰化(せっかいか)」ってなあに?

石灰化とは、乳管のなかにカルシウムが沈着することによって起きる変化のことをいいます。がん細胞は、増殖するとともに一部は死滅し、その部分に石灰が沈着します。そのなかには早期の乳癌が含まれることもあります。このため、石灰化は乳癌を疑うサインとなりますが、乳腺症など良性の乳腺の病気でもみられるため、石灰化がすべて乳癌と関係しているわけではありません。

超音波(エコー)

超音波検査(エコー検査)
超音波検査(エコー検査) 説明図
プローブを動かしながら、乳房内部を確認します。

乳房に超音波をあて、はね返ってくる反射波を画像化した検査です。乳房表面にゼリーを塗って、その上からプローブと呼ばれる機械をあてて乳房内部を写します。

マンモグラフィのように微細なしこりや石灰化を写すことには適していませんが、乳房の内部の構造を観察しながら、触診では検出できない小さな病変を見つけることができます。痛みはなく、X線を使わないので、何度でも検査を受けられ、妊娠中でも検査が可能です。

開く確定診断に必要な細胞診、組織診(生検)

細胞診・組織診(生検)
細胞診・組織診(生検) 説明図
採取した細胞や組織を顕微鏡で確認します。

乳癌であるかどうかを確定するためには、病変から採取した細胞や組織を顕微鏡で見てがんかどうかを判別します。乳癌の確定診断にもっともよく用いられるのが「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」「針生検(はりせいけん)」です。

穿刺(せんし)吸引細胞診

乳房内のしこりに細い注射針を刺し、細胞を吸引・採取して、がん細胞かどうかを調べる検査です。針を刺すので痛みは少しありますが、局所麻酔は必要とせず、注射の跡も残りません。反面、細い針を使うため、採取できる細胞の量がとても少なく、正確な診断が難しいことがあります。
細胞診は、良性か悪性かを推定するために行われることが多く、がんと確定するためには、より多くの組織を採取できる組織診が必要となります。

針生検(組織診)

病変部に太めの針を刺して病変組織を採取し、症状の原因を調べる検査です。
針生検は、組織を採取するときに用いられる機械の種類によって、〈コア針生検〉〈吸引式乳房組織生検〉に分けられます。どちらも痛みを抑えるため、局所麻酔を用いて検査します。

コア針生検

バネの力を利用して病変部の組織を切り取る方法です。組織片を採取できるため、細胞診より確実な診断が可能です。ただし、病変がほんの少ししか採取できなかった場合や、つぶれてしまった場合は、〝がんの疑い〟といったあいまいな診断になることもあります。このような場合は、追加の検査が必要です。

吸引式乳房組織生検

コア針生検よりもさらに太い針を刺して自動的に吸引して組織を採取する方法です。マンモトームという機械を用いる場合、「マンモトーム生検」と呼ばれることもあります。 1度で複数の組織を採取できるため、しこりがはっきりしない場合にも生検を行うことが可能です。

外科的生検

手術で病変の一部・または全部を摘出して検査する方法です。
組織診の中で最も多くの組織量が得られますが、大きく切開するため傷跡が残る可能性があるなど、患者さんへの負担が大きい検査です。

診断後の検査と臨床病期診断

診断確定後の検査

乳癌と診断されたら、MRIやCT、超音波などの画像検査を行って、しこりの大きさやがんの広がり具合、進行の程度などを調べます。

これらの結果から「乳癌の臨床病期(ステージ)」を診断し、生検時に採取したがん細胞の性質や状態を確認したうえで、治療計画を立てていきます。

開くがんの広がりを調べる画像検査

乳房MRI(磁気共鳴装置)

強い磁力を発生するMRI装置を用いて、病巣を画像化し診断する方法です。
さまざまな角度から画像を撮影することができるため、乳房内でのがんの広がりの程度を調べるのに適しています。特に、乳房温存療法で、切除範囲を決めるときなどに欠かせない検査といえます。

CT(コンピューター断層撮影)

コンピューターを用いた特殊なX線断層装置で、からだの断面を映し出す方法です。撮影する範囲が広いので、肺や肝臓、脳など、他の臓器への遠隔転移をみつけるのに有効です。

骨シンチグラフィ

乳癌の骨への転移を調べるための検査です。放射性物質(アイソトープ)を注射し、転移のある骨にアイソトープが集まる性質を利用して、転移の有無を確認します。
骨への転移の可能性が高いと判断された場合に行うことが多く、早期の乳癌には行わないことがあります。

開く乳癌の臨床病期診断

診断後は、MRIやCTなどの画像検査の結果に基づいて、がんの広がり具合を評価します。これを病期(ステージ)診断といいます。
乳癌の病期は、「しこりの大きさ」、「リンパ節転移の有無」、「遠隔転移の状況」によって大きく5段階に分類されています。
病期診断は、現在の状況を把握するのと同時に、手術の種類や治療の経過を予測する重要な指標となります。

乳癌の臨床病期(ステージ)分類 説明図

  • 病期診断は、手術前に確定できるのが理想ですが、術前の画像検査などですべてを確認できないことがあります。その場合は、手術時の状態をもとに病期を確定します。

開くがんの性質や状態を確認するための病理検査

がんの広がりを評価するとともに、治療方針をたてるうえで欠かせないのが、がんの性質(生物学的性質)を調べるための病理検査です。
生検や手術時に採取したがん細胞を詳しく調べ、個々のがんの性質を確認します。

乳癌にはさまざまなタイプがあり、治療に対する反応性も異なります。不要な治療を避け、有効性の高い治療を選択するためには、病理検査による詳細な情報が欠かせません。

最近では、個々の患者さんの病態と腫瘍の生物学的特性を評価したサブタイプ分類(病型分類)に基づいて、薬物療法の内容を選択したり、再発リスクの評価などを行うようになっています。

乳癌のサブタイプ(病型) 説明図

  • サブタイプ別に推奨される薬物療法については治療編をご覧ください。

治療の種類と進め方

開く治療の種類

乳癌の治療法には、外科手術放射線療法などの局所的な治療と、全身的な治療である薬物療法(化学療法、ホルモン療法、抗HER2 療法)があります。
乳癌は、小さくてもいろいろな臓器に転移しやすい性質があるため(囲み欄参照)、手術や放射線療法などの局所療法だけでなく、患者さんの状態に応じて薬物療法を組み合わせた治療を行うのが一般的です。こうした治療を「集学的治療」といいます。

乳癌の治療法 説明図

乳癌と微小転移について

乳癌は、しこりとして見つかるだいぶ前からリンパ管や血管に入り込み、全身に広がっていることがあります。目に見えない微細ながん細胞は、タンポポの種のように浮遊し、転移の種となってリンパ節や他の臓器に住み着きます。これを「微小転移」といいます。微小転移が存在するかどうかは、画像検査で確認することはできません。このため、たとえ早期であっても、微小転移を伴っている可能性がある場合は、再発を抑えるため、局所的な治療に加えて全身治療として乳癌の性質に合わせた薬物療法を行います。

開く治療の決定にあたって確認すべきこと

乳癌と診断され、最初に受ける治療を「初期治療」といいます。
必要な初期治療は患者さんの状態によって異なります。最良の治療を受けるためには、まず患者さんが自分の乳癌の状態を正しく理解し、標準的な治療法が何かを把握したうえで、主治医に自分の希望を伝えながら治療を進めていくことが大切です。下記に、治療法の決定にあたって確認すべき事項を示しました。これらは、治療方針を決めるうえで欠かせない情報ですので、生検や手術後に医師に聞いてよく確認しておくようにしましょう。

治療法の決定にあたって確認すべきこと

  • しこりの大きさ、乳房内の広がり具合
  • がんの広がり具合(リンパ節や他臓器への転移の有無)
  • 病巣の数、位置
  • がんの性質(悪性度、治療の反応性、増殖指数など)
  • 全身状態 など

日本乳癌学会編:患者さんのための乳癌診療ガイドライン2012年版より改変

「標準治療」とは…?

標準治療とは、臨床試験によって有効性と安全性が科学的に証明され、専門家によって「現時点において最善の治療法である」と合意が得られた治療法のことをいいます。乳癌では臨床試験が数多く行われており、初期治療については治療の標準化が進んでいます。
日本人向けの標準治療は、日本乳癌学会が作成した『乳癌診療ガイドライン』(金原出版)において提示されています。また、患者さんが乳癌診療を正しく受けていただくために、「患者さんのための乳癌診療ガイドライン」(金原出版)も編集・発行されており、疫学、予防、検診・診断、治療、療養の各領域での重要な項目について分かりやすく解説されています。

開く診断から治療の大まかな流れ

乳癌の治療は、手術、放射線、薬物療法などを組み合わせて行い、何通りものやり方があります。がんと診断されると、すぐに手術をしないと全身に広がってしまうのでは、と心配になるかもしれませんが、1~2ヵ月で急にがんが進展することはほとんどありません。治療法を決めるときは、あせらず時間をかけて納得のいくまで検討することが大切です。

下の図は、乳癌の診断から治療の大まかな流れを示したものです。必要な治療や進め方は患者さんの病態や希望によっても異なりますので、医師とよく相談したうえで、ご自身の治療のスケジュールを把握しておくとよいでしょう。

初期治療のおおまかな流れ 説明図

開く病期ごとの治療の進め方関連1

下の図は、臨床病期による治療の概略を示したものです。
乳癌の治療は、病期によっても異なります。
Ⅰ期からⅢ期の乳癌に対しては、手術を中心とした局所治療と全身的な治療である薬物治療を組み合わせた集学的治療を行います。
非浸潤がんでごく早期にみつかった0期では、外科手術だけで定期観察することもあります。他の臓器に転移しているⅣ期では、薬物療法を中心に治療を進めていきます。

乳癌の臨床病期と治療法の選択(目安) 説明図

開く再発・転移した乳癌に対する治療

再発は、体内に潜んでいた微細ながん細胞が、初期治療などをくぐり抜けて生き残り、再び増殖することで起こります。
がんでは、再発した部位によって「局所再発」と「遠隔転移」に分けられます。乳癌の再発は手術後2~3年で見つかることが多いものの、5~10年以上たってから見つかることも少なくありません。
局所再発と遠隔転移では、それぞれ治療の考え方が異なります。

局所再発に対する治療法

局所再発は、乳房温存手術後の乳房や、手術で切除した乳房側の胸壁やリンパ節に再びがんが見つかることをいいます。
悪性度にもよりますが、遠隔転移を伴っていない局所再発であれば根治を目指すことが可能です。

治療の進め方

乳房切除後にその周囲の皮膚や胸壁、リンパ節に再発した場合は、がんの部分を切除し、放射線療法を行うのが一般的です。
乳房温存療法後に再発した場合は、残した乳房全体を切除するのが標準です。いずれの場合も、必要に応じて薬物療法を行います。

局所再発乳癌治療のおおまかな流れ 説明図

遠隔転移に対する治療法

遠隔転移とは、「肺」や「肝臓」、「骨」など、乳房とは離れた臓器に乳癌が見つかることをいいます。
遠隔転移が見つかった場合は、完全に治すのが難しいのが現状です。このため、がんの進行を抑えたり、症状を和らげるなどして生活の質(QOL)を保ちながら、がんと共存するための治療を行います。

治療の進め方

遠隔転移している場合は、がん細胞がからだ全体に散らばっていると考えられるため、全身的な治療法である薬物療法が中心となります。
治療法は、次のような要素を考慮して決めていきます。

治療の選択にあたって考慮すべきこと

薬はたくさんの種類があり、1つの治療法の効果があるうちは続け、効果が無くなってきたら次の治療法に切り替えるという方法で、病気の進展をできるだけ長く抑えることを目指します。また、患者さんの状態に応じて症状を和らげる治療を行います。(遠隔転移した乳癌に対する薬物療法をご覧ください)。

外科手術

外科手術は、乳癌に対する最も基本的な治療法です。
外科手術の標準的な術式には、「乳房温存手術」「乳房切除術」があります。

開く乳房温存手術

しこりを含む乳腺の一部を切除する手術です。原則として乳頭、乳輪は残し、必要に応じて、センチネルリンパ節生検、あるいは腋窩リンパ節郭清を行います。温存手術は、切除方法によって下記の3つの術式に分けられます。
いずれの場合も、温存した乳房内の再発を防ぐため、術後に放射線療法を組み合わせるのが基本です。これを「乳房温存療法」と言います。

乳房温存手術 説明図

開く温存手術が適応になる場合、ならない場合

下記の項目に当てはまる場合は、乳房温存手術が検討されます。ただし、早期の乳癌でも乳管内の広がりが広範囲なときは温存手術の適応とはなりません。

乳房温存手術の主な適応

  • 病期II期までで腫瘍の大きさが3cm以下の乳癌
  • 腫瘍を完全に取りきることができ、かつ見栄えも良好な手術が可能と判断された場合は4cmまで適応となることもある。
  • 腫瘍が3cmを超える場合でも、術前化学療法を行って腫瘍が縮小した場合に実施することもある。

乳房温存手術が適応にならない場合

  • 1.乳癌が広範囲にわたって広がっている(マンモグラフィで乳房内の広範囲に微細石灰化が認められる場合など)
  • 2.以下の理由で温存乳房への放射線療法が行えない場合
    • 温存乳房への放射線療法を行う体位がとれない
    • 妊娠中である
    • 過去に手術した側の乳房や胸郭への放射線療法を行ったことがある
    • 強皮症や全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併している
  • 3.しこりの大きさと乳房の大きさのバランスから、乳房温存手術では美容的な仕上がりが良くないと予想される
  • 4.患者さんが乳房温存療法を希望しない、あるいは乳房切除術を希望する

日本乳癌学会編:患者さんのための乳癌診療ガイドライン2012年版より改変

開く乳房切除術関連1

乳房切除術 説明図

乳房切除術は、しこりの上の皮膚を含め、乳房の組織をすべて切除する手術です。以前は乳房の下の大胸筋や小胸筋も取っていましたが、現在では、大胸筋や小胸筋は残す「胸筋温存(きょうきんおんぞん)乳房切除術」が標準的となっています。必要に応じて、「センチネルリンパ節生検」、あるいは「腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)」を行います。

切除術では、胸のふくらみや乳輪、乳頭は残せませんが、手術中または手術後に「乳房再建術」を組み合わせることで、乳輪、乳頭も含めて失われた乳房を人工的に取り戻すことが可能です。

開く切除術の主な適応

切除術の主な適応は、病期がIII期の乳癌です。また、乳房温存手術の適応がない場合にも、切除術が選択されます。

  • しこりの大きさが3㎝を超える
  • 乳癌が乳腺内に広範囲に広がっている
  • 複数のしこりが同じ乳房内の離れた場所にある
  • 乳房温存手術後に何らかの理由で放射線治療を受けられない
  • 患者さん本人が希望している

開く切除術の新しい術式

最近では、乳房の皮膚を温存して乳頭・乳輪を含め乳腺を切除する術式(skin-sparing mastectomy)も開発されています。この術式は、早期の乳癌のなかでも、がんの広がりが大きかったり、複数のがんが同じ側の離れた場所にあるため、温存療法の適応にならない方がよい対象とされています。

このほか、乳頭や乳輪を残す方法もありますが、大規模な臨床試験の結果がなく、標準的な術式にはなっていません。

開くメスを使わない乳癌の新しい局所治療(低侵襲治療)

先進的な取り組みとして、患部にメスを加えずからだへの負担がより少ない治療法も試みられています。こうした治療は「低侵襲(ていしんしゅう)治療」と呼ばれ、一部の施設において行われていますが、臨床研究の段階で、標準的治療には至っていません。

治療法 内容 保険適用
FUS(MRガイド下 集束超音波手術) MRI検査の画像をみながら、がん組織を狙って、虫メガネの原理で超音波のエネルギーを集中させ、熱でがんを死滅させる方法 なし
ラジオ波焼灼術 がん組織に電極針を刺し、その先端からラジオ波による摩擦熱でがんを死滅させる方法 なし
凍結療法 がん組織に刺した針を通じて組織を急速に冷凍、凝固させることでがん細胞を死滅させる方法 なし

リンパ節切除(腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい))

乳癌はわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)によく転移をします。
ここに転移している場合は、それ以上のがんの転移を阻止するため、手術の際、腋窩リンパ節を一緒に取り除きます。これを「腋窩リンパ節郭清」といいます。
腋窩リンパ節郭清を行った場合、腕に負担がかかった時などにむくみ(リン パ浮腫)を起こすことがあります。

センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節生検 説明図

センチネルリンパ節は、色素や放射性物質(アイソトープ)を病変の近くに注射し、リンパに沿って流すことによって見つけ出します。

触診や画像検査で、腋窩リンパ節への転移が確認されない方に行います。
「センチネル(見張り)リンパ節」とは、リンパ管に入ったがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことをいいます。ここにがん細胞の転移があるかどうかを、術中の迅速検査や術後の病理検査で調べます。
転移がない場合は、その先のリンパ節への転移もないと考えられるため、それ以上の切除は省略します。転移があった場合は、その先にがんの転移がある可能性があるため、腋窩リンパ節郭清を行 います。

以前は、ほぼすべての乳癌患者さんに腋窩リンパ節郭清を行っていましたが、センチネルリンパ節生検の普及により、転移をしていない患者さんに不要な腋窩リンパ節郭清を省略できるようになり、腕のむくみなどの後遺症を避けることができるようになりました。

手術後の主な後遺症

リンパ浮腫

手術で腋窩リンパ節郭清を行うと、リンパ液がたまって腕がむくんだり、はれることがあります。これをリンパ浮腫といいます。
一度リンパ浮腫になると治りづらいため、手術した側の腕で重いものを持たない、リンパの流れを圧迫しない、傷をつけないなど、予防を心がけることが重要です。また、手術した側の腕は、鍼(はり)や灸(きゅう)、強い力でのマッサージなどは避けることも大切です。

痛み・知覚異常(術後数年後)

手術を受けたところの痛みや違和感、しびれなどの知覚異常が起こることがあります。多くの場合、術後数ヵ月で自然に軽快しますが、長期に渡り日常生活の妨げになるような痛みが続く場合は、麻酔科やペインクリニックに相談することが勧められています。

放射線療法

開く放射線療法とは

高エネルギーのエックス線や電子線を照射して、がん細胞の遺伝子に障害を与え、がん細胞の増殖を抑えたり死滅させる治療法です。がんの中でも乳癌は放射線が効きやすいことが知られています。治療期間中は通院の必要がありますが、基本的に普段と同じ生活ができます。

開く主な適応

乳房温存手術を行った場合は、術後の再発を防ぐため、温存した乳房全体を照射するのが基本です。乳房温存手術後に放射線療法を加えた場合と、加えない場合を比較した試験では、放射線療法を加えることで、乳房内再発が約1/3に減少することが明らかになっています。

また、乳房切除術後の患者さんで再発リスクが高いと考えられる場合は、胸壁や周囲のリンパ節への放射線照射が勧められています。がんが骨に転移している患者さんでは、転移に伴う痛みを緩和するために使われることもあります。

放射線療法の主な適応

  • 乳房温存手術後の患者さん全例
  • 乳房切除術で、再発リスクが高い場合(腋窩リンパ節に4個以上の転移が認められたあるいは腫瘍が5cm以上)
  • 腫瘍が大きくて手術ができない場合
  • がんの増殖や骨転移に伴う痛み、脳転移による神経症状などがある場合

ただし、以下のような場合は、放射線療法は受けられません。

放射線療法を受けられない場合

  • 妊娠中の方
  • すでに乳房への放射線照射を一定量受けたことがある方
  • 膠原病の方(放射線障害が生じやすいため)
  • 本人が希望しない場合

開く放射線治療の進め方関連1

正常組織への影響を小さくするため、一度に照射する放射線の量を減らし、何回にも分けて照射を行います。放射線療法は次のような手順で進めます。

放射線治療法の進め方(手順) 説明図

治療スケジュール(乳房温存療法の場合)

放射線の照射は1日1回のペースで週5~6日通院して行い、1~2日間休むというのが一般的です。温存した乳房への照射は、1回1.8~2.0グレイ(放射線単位)、総線量では45~50グレイ程度を約5~6週間かけて行います。1回の照射時間は1~2分程度で、特に痛みはありません。

開く追加照射(ブースト照射)について

手術で切除した組織の端にがん細胞が認められた場合(切除断端陽性)では、がん細胞の取り残しの可能性が高いと考えられます。このような患者さんには、乳房内再発を減らすため、10~16グレイの追加照射(ブースト照射)を行うことが一般的です。乳房内再発の多くはしこりのあった周囲に起こるため、この部分に追加照射します。

開く主な副作用

放射線療法の主な副作用 説明図

放射線療法の副作用には、治療中や治療終了直後に現れる「急性障害」と、治療終了してから6ヵ月~数年後に現れる「晩期障害」があります。
「急性障害」のほとんどが、放射線が当たる部位の皮膚症状です。個人差はありますが、治療開始から3~4週間後くらいに、放射線を受けた皮膚が日焼けのように赤くなり、ひりひりすることがあります。場合によっては皮がむけたり、水ぶくれのようになることがありますが、治療が終了すれば1~2週間で軽快します。

治療後は照射した皮膚が黒ずんだり、照射した乳房が硬くなることがありますが、いずれも数年以内にかなりの程度回復します。

「晩期障害」の発現頻度は低いですが、100人に1くらい人の頻度で、治療後数ヵ月以内に肺炎が起こることがあります。放射線による肺炎は、適切な治療で治りますので、治療後に咳や微熱が長く続くときは、照射を受けた病院を受診するようにしてください。

薬物治療

開く乳癌の再発予防に欠かせない全身的な治療法

薬物療法の種類 説明図

乳癌は比較的早期から、目に見えない微細ながん細胞が全身に散らばり、微小転移を起こしやすいと考えられています。このため、微小転移を伴っているリスクが高いと考えられる場合は、再発を予防するため、乳癌の性質に合わせた薬物療法を行います。

再発予防の効果が確認されている薬物療法は「ホルモン療法」「化学療法」「抗HER2(ハーツー)療法」の3種類です。

開くどの治療法(薬剤)を選択するか

薬物療法では、まず患者さんから採取した組織を調べ、ホルモン感受性があるか、HER2(ハーツー)タンパクが過剰にあるか、がん細胞の顔つきはどうか、などを確認します。これらの病理検査によって「乳癌の性質(生物学的特性)」や「再発リスク」などを判定し、個々の患者さんの全身状態や閉経状態などを考慮したうえで、用いる薬剤や順番を決めていきます。

開く手術前の薬物治療関連1

手術前に行う薬物治療を「術前薬物療法」といいます。
以前は、薬物療法は手術後に行われるのが一般的でしたが(術後薬物療法)、最近では手術前に行うことも増えてきました。
生存率や再発率を調べた臨床試験では、術後化学療法と効果は同等です。

術前薬物療法の目的

術後の薬物治療と同様、転移や再発を防ぎ予後の改善をはかる目的に加え、下記のような目的があります。また、術前薬物療法には、使っている薬剤の効果を早く確認できるという利点もあります。

術前薬物療法の主な目的

手術前に治療を行い腫瘍サイズや広がりを縮小することにより

  • 手術の実施困難な進行乳癌を手術可能な状態にする
  • 乳房温存手術が困難な乳癌を温存できるようにする

開く手術後の薬物治療

手術後の薬物療法は、手術では取り除くことができない微細ながん細胞の転移を防ぎ、乳癌の再発リスクを低下させるために行います。

サブタイプの判定と術後治療の進め方

乳癌には、生物学特性によっていくつかのタイプがあり、それぞれ性質が異なります。
術前治療でも生物学的特性を調べますが、術後の薬物治療では、「ホルモン感受性」「HER2タンパク過剰発現の有無」「増殖マーカー能(Ki-67)の値」などのマーカーによって患者さんの乳癌の性質(サブタイプ)を判別します。さらに、「腫瘍の大きさ」や「リンパ節転移の状態」などの再発リスクを予測・考慮したうえで、「化学療法」「抗HER2療法」「ホルモン療法」の中から最と考えられる有効な治療法を選択、または組み合わせて治療を進めます。

乳癌のサブタイプと術後の治療法 説明図

再発リスクを予測する主な因子

各種の治療法
1. ホルモン療法(内分泌療法)

ホルモン感受性乳癌に対し、女性ホルモンの作用を抑えることでがんの増殖を抑制する治療法です。
生検や手術時に採取した乳癌組織を調べ、エストロゲン受容体(ER)またはプロゲステロン受容体(PgR)のどちらか、または両方が存在すれば(陽性)、「ホルモン感受性乳癌」となり、ホルモン療法の効果が期待できます。
乳癌の7割以上がホルモン受容体陽性乳癌です。

閉経状態を考慮した薬剤の使い分け

手術後の再発防止に用いられる主なホルモン療法薬には「LH-RHアゴニスト製剤」「抗エストロゲン薬(タモキシフェンなど)」「アロマターゼ阻害薬」があります。閉経前と閉経後では女性ホルモンの分泌の仕方が大きく異なるため、薬剤も、それにあったものを使用します。術後ホルモン療法は、5年間続けるのが一般的です。
進行および再発後の乳癌では、黄体ホルモン薬や抗エストロゲン薬のフルベストラントなどが用いられることもあります。

主なホルモン療法薬の作用 説明図

閉経前と閉経後の主なホルモン療法薬 説明図

主な副作用

抗がん剤に比べて重い副作用は少ないものの、エストロゲンの分泌や作用を抑えることで、更年期障害と同じような副作用が起こりやすくなります。

ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)

ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)

軽いものを含めると50%以上の患者さんに出現しますが、症状は次第に軽快することが多いので、しばらくようすをみます。仕事や日常生活に支障が起こるような場合は、症状を和らげるため、ビタミンEや抗うつ薬などの薬を検討することもありますので、主治医に相談するとよいでしょう。

生殖器の症状

性器出血、腟分泌物の増加、腟の乾燥、膣炎などの症状が現れることがあります。閉経後の方はタモキシフェンの治療で子宮体がんになる危険性が2~3倍増えると言われていますが、その頻度は非常に低く、タモキシフェンによる再発予防効果の利益の方が大きいと考えられています。

血液系への影響

タモキシフェンや黄体ホルモン薬(MPA)では、血液が固まりやすくなるため、まれに静脈血栓症などを起こすことがあります。特にMPAでは、血栓症を起こす恐れのある患者さんでは、投与禁忌になっています。

関節や骨への影響

アロマターゼ阻害薬では、骨密度の低下による骨粗鬆症が引き起こされる可能性があります。
また、関節のこわばりや痛みなどが生じることもあります。一方、タモキシフェンでは、骨に対して保護的に働くので骨が丈夫になります。

ホルモン療法薬の主な副作用 説明図

各種の治療法
2.化学療法(抗がん剤による治療)

抗がん剤を使って、がん細胞の増殖を抑制したり死滅させる治療法です。
乳癌の初期治療では、臨床試験によって高い効果が期待できる抗がん剤の組合せ・投与量・投与期間が確認されており、標準治療として推奨されています。

代表的な化学療法の種類と薬剤
記号 抗がん剤 投与法 期間
CMF シクロホスファミド 内服 4週ごと×6サイクル
メトトレキサート 静脈注射
フルオロウラシル 静脈注射
AC ドキソルビシン 静脈注射 3週ごと×4サイクル
シクロホスファミド 静脈注射
CAFまたはFAC フルオロウラシル 静脈注射 3週ごと×6サイクル
ドキソルビシン 静脈注射
シクロホスファミド 静脈注射
CAF(内服) シクロホスファミド 内服 4週ごと×6サイクル
ドキソルビシン 静脈注射
フルオロウラシル 静脈注射
EC エピルビシン 静脈注射 3週ごと×4サイクル
シクロホスファミド 静脈注射
FEC フルオロウラシル 静脈注射 3週ごと×6サイクル
エピルビシン 静脈注射
シクロホスファミド 静脈注射
CEF(内服) シクロホスファミド 内服 4週ごと×6サイクル
エピルビシン 静脈注射
フルオロウラシル 静脈注射
TC ドセタキセル 静脈注射 3週ごと×4サイクル
シクロホスファミド 静脈注射
3週ごとドセタキセル 静脈注射 3週ごと×4サイクル
3週ごとパクリタキセル 静脈注射 3週ごと×4サイクル
毎週パクリタキセル 静脈注射 毎週×12サイクル

※ドキソルビシンまたはエピルビシンを含む治療のあとに行うことが多い

主な副作用

抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、さまざまな副作用を引き起こします。副作用の現れ方は個人差がありますが、予防法や対処法が進歩したことで、事前の薬物治療などによりコントロールできることも増えてきました。気になる症状がみられたら、主治医や医療スタッフに早めに相談するようにしましょう。

吐き気、嘔吐

治療開始後すぐに現れる場合と、数日たってから現れる場合があります。抗がん剤の前に吐き気止めの薬を用いることで予防が可能です。

脱毛

ほとんどの抗がん剤で起こります。治療開始から2~3週間後に髪が抜け始めます。眉毛やまつ毛、体毛が抜けることもあります。治療が終了すればすぐに生えてきますので、それまでの間はかつら(ウィッグ)や帽子、バンダナなどでカバーします。

白血球の減少(骨髄抑制)

抗がん剤の使用後1週間目くらいから血液中の白血球が減少します。減少している時期に38℃以上の熱が出ることがありますが、多くの場合、事前に抗菌薬を処方してもらうことで対応できます。白血球を増やす薬(G-CSF)を用いることもあります。

倦怠感(だるい、疲れやすい)

体のだるさは抗がん剤投与後2~3日で生じることが多いようです。個人差はありますが、数週間続くこともあります。ほとんどの場合、投与が終われば自然に回復します。

その他

神経への影響(手足のしびれ、ぴりぴり感など)、手足症候群(手のひらや足の裏の刺すような痛み、はれ、発疹など)、下痢血管炎(血管の炎症による痛み、はれなど)、爪の異常(爪が黒くなったり割れやすくなる)、味覚障害(苦みを強く感じる、味に敏感になる、味覚に鈍感になる)など。

副作用が出現しやすい時期 説明図

各種の治療法
3.抗HER2(ハーツー)療法

抗HER2療法は、乳癌細胞の増殖に必要なHER2(ハーツー)タンパク(受容体)に作用する分子標的薬を使って、がん細胞の増殖を抑制する治療です。
治療の対象となるのは、針生検や手術時に採取したがん細胞の病理検査で、HER2タンパクが過剰に発現している「HER2陽性乳癌」の患者さんで、乳癌全体の15~20%を占めています。
術後の再発予防には、「トラスツズマブ」という分子標的薬を用います。
また、再発後の治療では、別の分子標的薬である「ラパチニブ」を用いることもあります。

トラスツズマブの作用 説明図

トラスツズマブの作用

乳癌の15~20%は、がん細胞の表面にHER2タンパク(受容体)が過剰に発現しています。

トラスツズマブは、HER2タンパクに結合することでその作用を阻害し、がん細胞の増殖を抑制します。さらに、薬がHER2タンパクに結合したことを目印に免疫細胞が攻撃し、がん細胞を死滅させます。

トラスツズマブによる治療方法

術後の治療に用いる場合は、原則として抗がん剤と組み合わせて用います。これにより、術前の腫瘍縮小効果、あるいは再発の危険性が半分近く押さえられることが確認されています。通常、3週間に1回ごとの点滴投与を1年間行います。

トラスツズマブの主な副作用

一般のがん細胞に比べると副作用は少ないものの、抗がん剤にはない特有の副作用があります。

発熱・悪寒

投与後に多くみられる副作用です。初回に現れることが多く、2回目以降にみられることはあまりありません。事前に薬を投与することでコントロール可能です。

心臓機能の低下・呼吸器障害

重篤な副作用として、「心臓機能の低下」や「呼吸器障害」が出ることがあります。頻度としてはまれですが、治療前と治療中は心臓機能の定期検査を行うことが勧められています。

開く遠隔転移した乳癌に対する薬物療法

現在のところ、全身に転移した乳癌を完全に追い出すことは困難のため、全身的な治療である薬物療法を中心に、生活の質(QOL)を重視した治療を行うことが推奨されています。最近では、新規の薬剤が登場したことで、治療の選択肢が広がり、より効果的で負担の少ない治療が選択できるようになりました。

転移・再発後の治療に使う薬剤について

がん細胞の特性(ホルモン感受性の有無、HER2の有無)や、転移・再発部位、患者さんの身体の状態、患者さんの希望などを考慮に入れ、患者さんのQOLを最優先して決めます。

ホルモン感受性のある乳癌については、原則として副作用が少なく、身体への負担が少ないホルモン療法から治療を開始します。HER2陽性の患者さんでは、分子標的薬を使用します。それ以外の人や、ホルモン療法が効かなくなった場合は、抗がん剤による治療を検討します。

転移・再発乳癌に対する治療のおおまかな流れ 説明図

骨転移に対する治療

乳癌で最も遠隔転移しやすい部位が骨です。骨転移は痛みの原因になるため、早めに適切な対策を講じることが大切です。

骨転移に対する薬物治療には、ゾレドロン酸などの「ビスフォスフォネート製剤」やデノスマブ(分子標的薬)などがあります。
これらをホルモン療法薬または抗がん剤と同時に用いることで、骨転移に伴う痛みや骨折などの頻度を減少させ、症状の進行を遅らせることが期待できます。

痛みが強い場合は、痛みの強さに応じた鎮痛薬(非オピオイド鎮痛薬など)を用います。

乳癌の自己検診

開く月に1回、乳癌の自己検診を続けましょう関連2

乳癌は、自分で見つけることができるがんです。月に1回、自己検診を行って、乳房の状態をチェックしましょう。
定期的にチェックすることで、ふだんの乳房の状態がわかり、少しの変化でも気づきやすくなります。

開く自己検診(セルフチェック)に適した時期は?

しこりが見つけやすい時期 の目安は、生理が始まって1週間~10日頃までです。
閉経を迎えた人は、毎月1回、覚えやすい日を決めてチェックしましょう。
気になる変化をみつけたら、早めに医師に相談し検査を受けてください。
乳癌検診で「異常なし」といわれた場合も、自己検診はそのまま続けましょう。

触診のコツと注意点

指先で乳房をつままない 説明図

指先で乳房をつままない

指先でつまむと、乳腺が硬いしこりのように感じられるため、しこりと間違えやすくなります。

仰向けのときは、肩下に枕やタオルを置いておく 説明図

仰向けのときは、肩下に枕やタオルを置いておく

肩下に枕や折りたたんだタオルを置き、この上に仰向けになって触診を行うと、しこりに触れやすくなるので効果的です。

乳癌の自己検診の方法 説明図

開く乳房の異常に気づいたら、検診を待たず専門医を受診しましょう

乳癌の自己発見につながる症状として最も多いのが「しこり」です。また、「乳房の皮膚の変化」や「乳頭のただれ」、「乳頭からの血の混じった分泌物」なども乳癌発見の手がかりとなります。 こうした症状以外にも気になる変化を感じたら、専門医を受診しましょう。

なかには「次の検診を待って」と考える人もいますが、検診は、症状を自覚していない人のがんを早期に発見するためのものです。すでに症状がある人は、その異常に特化した検査が必要ですので、必ず乳腺の専門医を受診して、病気かどうかを確認してください。

自己発見の手がかりとなる主な自覚症状

自己発見の手がかりとなる主な自覚症状 説明図

・ しこりがある

・ 乳房の皮膚に、ひきつれやくぼみがある

・ 乳頭がへこんだり、陥没している

・ 乳頭から血の混じった分泌物が出る

・ 乳房の皮膚がオレンジの皮のように変色している

・ 乳頭がただれたり、びらんが生じている

・ わきの下にグリグリしたしこりがある

開く専門医を受診する方法関連1

乳腺専門医のいる施設は、ネット上で調べることができます。
日本乳癌学会」のホームページでは、地域別に学会認定の施設や乳腺専門医の名簿を公開していますので、参考になります。名簿にない施設でも、乳癌の検査ができるところは他にもありますので、受診を考えたときは、電話などで専門医の有無などを確認すると良いでしょう。

セカンドオピニオン

開く「セカンドオピニオン」とは…

セカンドオピニオン イラスト

セカンドオピニオンとは、診断や治療法について、担当医とは別の医師の意見を聞き、参考にすることをいいます。

担当医から十分説明を受け、その内容に納得している人であれば、セカンドオピニオンを受ける必要性は特にありません。しかし、担当医に診断や治療方針の説明に不安があるときや、いくつかの治療方針を提示されて迷っているとき、あるいは、担当医の診断や方針に納得しているけれど、念のため確認しておきたいときなどには、セカンドオピニオンを受けてみるのもよいでしょう。別の医師の意見を聞くことで、担当医の意見を別の角度から検討することができますし、場合によっては、より納得できる治療方法が選択できることもあります。

セカンドオピニオンを希望すると、担当医が気分を害するのではないか、と心配する人もいるかもしれませんが、最近では、セカンドオピニオンを求めることは、一般的なことになってきています。
セカンドオピニオンを希望する場合は、遠慮しないで担当医に伝えましょう。

開くセカンドオピニオンを受ける時期は…

特に決まりはありませんが、目安としては、乳癌という診断を確認したい場合や、初期治療を受ける際に、どのような選択肢があるかを確認したい場合、また、転移や再発したときには、治療方針を決める場合などが、セカンドオピニオンを受けるに適した時期といえます。

セカンドオピニオンを受ける時期(目安として)

  • 乳癌という診断を確認したい場合
  • 初期治療を受けるとき(どのような選択肢があるかを確認したい場合)
  • 転移・再発したとき(治療法や使用できる薬の種類などを知りたい場合)

開くセカンドオピニオンの提供先を探すには…

セカンドオピニオンを受けるときは、治療について十分に経験のある医療機関を受診することが大切です。大学病院などでは、セカンドオピニオンのための専門外来を設けているところもあります。

どこで受けるか迷う場合は、がん診療連携拠点病院の相談支援センターに問い合わせてみてください。その地域のセカンドオピニオン外来を行っている病院の情報を得ることができます。

他にも、インターネットを利用して検索したり、患者団体の相談窓口に聞くなどして情報収集する方法もあります。その際は、乳腺の専門医がいる施設を選ぶことが基本ですが、さらに候補を絞る場合は、施設や医師の得意分野を把握しておくとよいでしょう。たとえば、乳房再建を検討している場合は、施設の乳房再建術の件数を調べたり、温存治療を希望している場合は、術前の薬物治療を積極的に行っているか、といったことが参考になります。

開くセカンドオピニオンの費用は…

セカンドオピニオンは、通常、保険診療ではなく自由診療として行っています。専門外来を受診する場合、費用は30分1~2万円前後が多いようですが、中には数万円の費用を設定している病院もあります。設定条件など施設によって異なりますので、事前に連絡をしてから訪問するとよいでしょう。

開くセカンドオピニオンの上手な受け方

セカンドオピニオンを上手に受けるためには、事前の準備や心構えが大切です。重要なことは、セカンドオピニオンとして何を聞きたいかをはっきりさせておくこと。そのうえで、次のステップを心掛けるとよいでしょう。

セカンドオピニオンの上手な受け方 説明図

ステップ1担当医にセカンドオピニオンの希望を伝えて、診療情報提供書(紹介状)などの資料を準備してもらいましょう。セカンドオピニオンは”データ持参”が原則ですので、がんの診断と治療法の決め手となった画像診断のフィルムなどの現物も準備してもらうことが大切です。

ステップ2セカンドオピニオンを予定している医療機関に、受け入れ状況や費用などを確認しておきましょう。なかには混み合っていて、すぐに対応してもらえないところがあったり、受診時間が限られていることもあります。費用についても確認しておくとよいでしょう。

ステップ3せっかくセカンドオピニオンを聞きにいっても、とりとめのない話で終わらせてしまっては意味がありません。時間を有効に使うために、これまでの経緯や聞きたいことをまとめておきましょう。

ステップ4セカンドオピニオンを受けたら、セカンドオピニオン医から説明されたことや、それに対する自分の気持ちを、担当医に伝えてください。治療方針に違いがある場合は、その内容を吟味したうえで、今後のことを相談することも大切です。もし転院を希望する場合は、その旨を担当医に伝えるようにしましょう。

開く”ドクターショッピング”にならないように

患者さんのなかには、自分にとって都合の良い診断を下す医師が現れるまで新しい医療機関を受診し続けることがあります。これをドクターショッピングといいます。

ドクターショッピングに陥ると、同じ検査を繰り返し受けることになったり、必要な治療のタイミングを逃すことになるなど、適切な治療を受けるうえでも、また、時間や費用の面からも、マイナスの要素が大きくなります。

大切なことは、信頼できる医師としっかり話し合ったうえで、納得して治療を受けること。セカンドオピニオンは、そのための手段であることを忘れないようにしましょう。

術後の生活の注意点

開く術後に気をつけたいこと

退院して自宅に戻ったとき、早く手術前の生活に戻りたいと焦りを感じる方は少なくないと思います。なかには「手術を受けた後だから」と、からだをかばって運動を控えたり、家にこもりがちになってしまうこともあるかもしれません。術後の回復期間は、受けた手術の内容によっても異なりますが、病院から指示された術後のリハビリ体操を行いながら、徐々に手術前の生活に戻れるようにからだをならしていきましょう。早期に回復するためには、手術直後からリハビリテーションを始めることが大切です。また、治療の副作用で体調のよくない日や睡眠不足の時は、しっかりと休息を取ることも必要です。

開く日常生活の中でもリハビリを意識して

手術の傷が治る過程で、傷口が硬くなり、腕を上げたときなどに、脇の下が突っ張って違和感を感じることがあります。しかし、傷口をかばってそのまま動かさないでいると、肩や腕の関節や筋肉がこわばり、腕を動かしにくくなってしまいます。最初は多少痛みがあるかもしれませんが、家事や身の回りの支度など日常生活でできる動作を工夫しながら、徐々に腕をつかう動作を取り入れていくとよいでしょう。

普段の動作にリハビリを取り入れてみましょう

普段の動作にリハビリを取り入れてみましょう イラスト

  • 手を後ろに回す
    タオルで背中を拭く
    背中のファスナーを締める
    エプロンのひもを結ぶ、など
  • 手をあげる
    洗濯物を干す
    Tシャツを着脱する、など
  • 手を伸ばす

開く浮腫(むくみ)を予防しましょう

乳房の手術時に腋窩リンパ節郭清を受けた方は、リンパ液が流れにくくなり、浮腫(むくみ)が起こりやすくなります。リンパ液の流れをスムーズにするために、適度な運動(リハビリ体操など)を毎日行うと共に、リンパ液の流れを圧迫するようなことをできるだけ避けるようにしましょう。

また、リンパ節は細菌やウイルスの感染を防ぐ働きがありますので、手術でリンパ節を取ってしまうと感染に弱くなり、少しのことでも炎症を起こしやすくなります。常に清潔を心掛け、炎症を起こさないようにしてください。

リンパ浮腫を予防するために心掛けること

リンパ浮腫を予防するために心掛けること イラスト

リンパ浮腫を予防するために心掛けること イラスト

  • 体を締め付けない
    きつい指輪や腕時計、からだを締め付ける下着は着けないようにし、袖口のゆったりとした服を着るようにしましょう
  • 腕を圧迫しない
    重い荷物を持ち上げたり腕にかけないようにしましょう。手術した側を下にして寝ないようにしましょう。
  • 傷をつくらない
    爪の手入れをこまめにする、肌の乾燥を防ぐために保湿に気をつける、採血は手術の反対側の腕で行うなど、傷をつくらないように配慮します。
    傷ができたときには、すぐに水洗いをしてから消毒をしてください。
  • 日焼けや虫さされに気をつける
    長袖の服を着用したり、日焼け止めや虫さされスプレーを活用しましょう。
  • 体重をコントロールする
    体重が増えすぎないよう注意しましょう

開く車や自転車に乗るときは、負担をかけないように工夫を

車や自転車に乗るときは、負担をかけないように工夫を イラスト

車や自転車の運転は、思ったよりも力がいるものです。腕に力が入りにくい間は、車や自転車の運転は控え、回復してきたら、短い時間から徐々に慣らしていくようにしましょう。

シートベルトが傷に当たって痛みがあるときは、洋服の上からタオルをあててシートベルトを緩めると痛みが楽になります。

また、電車やバスに乗車するときは、からだを安定できる方の腕でつり革や手すりを使用するようにしましょう。

開くつらいときは無理をせず、周りの理解と協力を得ましょう

乳癌は働き盛りの年代で発症することが多いがんです。それだけに、家族や周囲の人に対する責任感から、無理を重ねてしまうこともあるかもしれません。しかし、退院後は、徐々に生活のペースを取り戻す時期です。できれば「病気もいい機会」と前向きにとらえて、家族や周りの人の助けを借りながら、ゆっくり休むことを心がけたいものです。

また、術後の治療で化学療法を受けている人では、治療中、吐き気やしびれ、疲労感などに悩まされることもあります。つらい場合は、無理をせず、そのことを家族や周囲の人に伝えましょう。

協力して欲しいことがあったら「~して欲しい」と具体的に示すことも大切です。黙っていると、何がつらいか分からないことがあります。伝えることで、家族もあなたの状態や気持ちに気付き、必要な援助やサポートを受けやすくなります。

開く仕事を持っている人へ

仕事を持っている人は、職場復帰の時期も気になるのではないでしょうか。仕事を開始し、普段の生活に戻ることは、心の充実感にもつながります。しかし、手術後も通院治療は続きますので、体調が優れないときは仕事の時間を短縮できるかなどを、職場に確認しておくとよいでしょう。

また、術後の放射線治療や抗がん剤の治療が必要な場合は、副作用との上手に付き合い方も知っておくことが必要です。体調が戻るまでの間、業務内容を調整してもらうなど、無理をしない環境づくりを整えておくことも大切です。病状や治療の経過、通院の有無などについてどのように話すか、同僚や周囲の人とも相談して準備しておくとよいでしょう。

乳房再建について

開く乳房再建とは…

乳房再建とは、乳癌の手術によって失われた乳房を、形成外科の技術によって再建することをいいます。乳房を失うことで、「人目が気になり着替えがしにくい」、「温泉に入れない」、「補正パッドをつけるのがわずらわしい」といった不便や不自由さを感じる人は多く、乳房を失った喪失感から立ち直れない人もいます。乳房再建は、こうした不都合を乗り越え、心身ともに手術前の生活に近づけることを目指して行います。

開く乳房再建の種類と方法

乳房再建手術は、再建を行う時期により、「一期再建(同時再建)」「二期再建」と呼ばれる2つの治療の流れがあります。
また、補う方法(使用素材)によって大きく「自家組織を使う方法」と、「人工乳房を使う方法」の2つの方法に分けられます。

【乳房再建の時期】

  • 一期再建:切除手術と同時に行う方法
  • 二期再建:切除手術のあと一定期間おいてから行う方法

【乳房再建の方法】

  • 自家組織(脂肪、筋肉など自分のからだの一部)を使う方法
  • 人工乳房を使う方法

一期再建と二期再建の長所と短所

一期再建では、乳房の切除後、そのまま再建術を行います。このため、術後に乳房のふくらみがない、という喪失経験をしないで済みます。また手術時間は長くなるものの、切開や麻酔、入院は1度で済むことが多いため、二期再建より手術の回数が少なく、費用的にも低く抑えられるのもよい点です。
短所としては、再建手術に関して十分に検討する時間、心理的余裕がないまま手術を受けることも多く、理解が不足しがちなことがあります。また、一期再建の場合は、再建を行う形成外科医がいる医療施設で行う必要があるため、整形外科と連携している施設でないと事実上選択できません。

二期再建は、基本的に希望があればいつでも手術が可能ですので、乳癌の治療後にゆっくり時間をかけ精神的にゆとりをもった状態で手術に臨むことができるのが長所です。
ただし、手術回数や費用については、一期再建に比べて多くなります。また、二期再建では、再建術を受ける医療機関を自分で選ぶことが必要になりますので、医師選びをどうするか、よく検討しておくことも重要です。

なお、いずれの再建法も、局所再発率は変わりません。また、再発を見つける妨げにならないことも明らかになっています。

一期再建と二期再建の長所と短所 説明図

乳房再建は、大きく分けて、(1)「自家組織による再建」と、(2)「人工乳房による再建」の2種類あります。

(1)「自家組織による再建」

患者さんの体の一部の組織を胸に移植する方法で、お腹の組織を使って補てんする方法(腹直筋皮弁法)と、背中の組織を使って補てんする方法(広背筋皮弁法)があります。

腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう) イラスト

腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)

お腹の皮膚と脂肪を、腹直筋の一部を付けた状態で、皮膚の下をくぐらせて胸部へ移植する方法です。お腹の脂肪を栄養にしている血管を付けて脂肪だけを移植して乳房をつくる方法(穿通枝皮弁法)もあります。お腹には脂肪が十分あるため、再建した胸の感触は柔らかく自然です。
ただし、お腹の筋肉を一部取るため、腹筋が弱くなることから、お腹の手術を受けた方や、将来妊娠・出産を予定している方には適しません。

広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう) イラスト

広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)

背中の皮膚、脂肪、筋肉に血管をつけたまま胸部に移植する方法です。
背中に傷が残りますが、特殊な縫い方によって目立たなくすることができます。感触は柔らかく自然です。
ただし、背中には脂肪が少ないため、大きな乳房は作れません。また、年月がたつと、再建した乳房が小さくなることがあります。このため、人工乳房を併用する方法が多く用いられています。

(2)「人工乳房による再建」

シリコンでできた人工乳房を挿入して補てんする方法です。
最も多く用いられているのは、「エキスパンダー法」です。ただし、皮膚にゆとりのある人では、エキスパンダーを使わず、はじめから人工乳房を挿入する方法もあります(単純人工乳房挿入法)。

エキスパンダー法 イラスト

エキスパンダー法

皮膚を伸ばす袋(ティッシュ・エキスパンダー)を胸の筋肉に入れて、生理食塩水を徐々に入れて皮膚を伸ばし、乳房の形に膨らませた後、エキスパンダーを抜いてシリコンでできた人工乳房に入れ替える方法です。
手術は全身麻酔で行いますが、30~40分程度ですみ、外来で対応が可能です。また、乳房切除術のときにできた傷を使うため、新たな傷ができないのもメリットです。
人工乳房に使うバッグには様々な形や大きさがあり、これらを、使用する部位や大きさによって選択します。ただし、健康な側の乳房が垂れていたりするとバランスが悪くなり、対称性を維持するのが難しいこともあります。また、特に一次再建では、感染に注意する必要があります。

乳房再建の方法 説明図

乳房再建方法の主な特徴 説明図

開く乳頭・乳輪の再建について

乳頭と乳輪の再建は、乳房を再建して位置や形が安定するのを待って行います。通常は、乳頭を先に再建します。
乳頭は、乳頭を造る予定の場所の皮膚を切って組み立てたり、反対側の乳頭に余裕がある場合は、一部を取って持ってきたりする方法があります。
乳輪は、健康な側の乳輪の半分を移植したり、太ももの付け根など似たような皮膚を移植する方法があります。また、刺青(いれずみ)による方法を使いて、再建した乳房に針でインクを入れて着色する方法も広く行われています。
乳頭の再建は健康保険の適用となっていますが、乳輪の再建は、多くの場合、保険適応外のため自費扱いになります。

開く乳房再建を検討されている方に

このように、乳房再建はさまざまな組み合わせがあり、適用される条件も異なります。できれば乳癌の手術の前に、担当の外科医だけでなく形成外科の専門医を交えて、納得できるまで説明を受けたうえで、適した再建時期と方法を選択するようにしてください。その際、乳房再建の経験が豊富な医師を選ぶことも大切なポイントです。

担当医(外科医)+ 形成外科医 イラスト

心の健康を維持するために

開くがん患者さんの心の反応

がん患者さんの心の反応 イラスト

がんと診断されたら、誰でも少なからずショックを受けると思います。「自分に限ってまさか」という人や、「頭が真っ白になった」「どうしていいかわからなくなった」という方も少なくないでしょう。

こうした心の動揺や不安を抱えるのは、診断時だけとは限りません。退院して実生活に戻ったときや、薬物治療を始めるとき、術後の治療を終えたあとなども、さまざまな思いが心の中をかけめぐり、今まで経験したことのないような不安や落ち込みなどの感情に襲われることがあります。

「がんの社会学」に関する合同研究班の調査(2004年)でも、がん体験者の悩みや負担のうち最も多かったのは「不安などの心の問題」であることが報告されています。

がん体験者の悩みや負担の割合(上位7件を抜粋) 説明図

開く告知後の不安や落ち込みは一時的なもの

では、がんを告知された人の心の動きは、どのようなものでしょうか。

告知後は多くの人が激しいショックを覚えます。「なにかの間違いなのでは」と病気を否認する気持ちや、「もう治らないのでは」といった絶望感におそわれ、何も手に付かなくなることもあります(衝撃の時期)

そうしたショック状態が治まると、今度は漠然とした不安感や気分の落ち込みに見舞われます。「食欲がない」、「眠れない」といった症状が続き、一時的に日常生活に支障をきたすこともあります(不安・抑うつの時期)

しかし、人間には状況に適応する能力が備わっています。告知から2~3週間くらいたつと現実を受け止められるようになり、前向きな気持ちが湧いてきます。病気について勉強を始める意欲が湧いたり、保険の申請手続きを行う、といった現実的な行動ができるようになってきます(適応の時期)

悪い情報が伝えられた時の心の反応 説明図

このように、通常は2~3週間程度で適応の時期を迎えることができるようになりますが、なかには、ひどく落ち込んで何も手に付かないような状態が長引き、日常生活に支障をきたすこともあります。こういう状態を「適応障害」といいます。

落ち込みの程度が強く、日常生活を送ることが困難な場合は「うつ病」になることもあります。さまざまな研究から、適応障害など心の問題は、がん患者さんの10~30%が経験することが知られています。

開く心の状態をチェックしてみましょう

心の状態は、本人も気づかないことが多いものです。チェックリストを使って今の状態を調べてみましょう。
以下の項目で5つ以上チェックがついたら、抑うつ状態の可能性があります。チェックBに進んだ方も、気分の落ち込みなどで日常生活に影響がある場合は、適切なサポートが必要な状態といえます。

落ち込み(抑うつ)のチェックリスト 説明図

開く専門家の支援を受けましょう

気持ちの落ち込みが長く続く場合は、自分の今の気持ちを誰かに聞いてもらいましょう。ご家族でも友人でも、医師や同じ体験を持つ仲間でもかまいません。気持ちを話すことで、問題が整理されたり、不安感が和らぐことも多いものです。

それでも強い不安感を感じ、食欲がない、眠れない、心臓がドキドキする、といった症状が続く場合は、心の専門家(精神科医、診療内科医、心理療法士など)に相談して、カウンセリングや薬による治療を受けることも大切です。

医療機関によっては、「グループ療法」を行っているところもあります。グループセラピーとは、同じ病気の患者さん同士が集まり、グループで話しをすることで、病気に取り組む新たな気落ちと方法を見つけている方法の一つです。

同じ経験を持つ患者さんと話すことで、気持ちが軽くなったり、療養生活を快適に送る知恵が得られることもあります。

開く病院の相談窓口を利用する方法もあります

心の問題だけでなく、仕事や福祉制度に関する事、転院や在宅介護のことなどで悩みやトラブルを抱えている場合は、病院の相談窓口を利用してはいかがでしょうか。

相談の内容に応じて、専門の看護師やソーシャルワーカーなどから必要なサポートを受けることができます。
通院している施設に相談室や窓口がない場合は、地域がん診療拠点病院の相談室に連絡して問い合わせることも可能です。

よい相談の仕方4つのポイント 説明図

また、財団法人日本対がん協会では、無料のがん相談窓口として、看護師と社会福祉士が相談に応じる電話相談「がん相談ホットライン」と、医師による電話相談や面接相談(事前予約制)を行っています。

専門家のサポートを受けることで、悩みが軽減したり、必要な対策を早めに講じることができることが期待できますので、相談したいことがあったら、一度問い合わせてみてもよいでしょう。

公益財団法人日本対がん協会
「がん相談ホットライン」

http://www.jcancer.jp/

開く自分で行えるストレス対処法

すべての悩みやストレスを解消する方法はありません。しかし、何かしら行動に移していくことで、自分にあった対処法が見つかることも多いものです。
下に示したストレスの対処法をヒントに、できるものから取り組んでみてください。自分らしいやり方でストレスに対処していくことが、気持ちの安定につながります。

自分でできるストレス対処法20 説明図